8月30日と31日の2日間、酪農学園大学にて日本産業動物獣医学会(北海道)が開催されました。
日本の臨床獣医の3大学会は、『日本獣医麻酔外科学会』『日本獣医画像診断学会』『日本獣医循環器学会』です。
ですが、これらの学会に入会している馬の獣医師はとても少数です。数年前、これらの学会の学術集会で馬の発表すると、発表直前に小動物の先生方が別の部屋に移動されて、ちょっと寂しい思いをしていました。2回目以降は、『小動物の先生にも興味を持ってもらえるような内容』を心がけて演題を決めると、たくさんの先生が見てくださり、我々とは違う視点から多くのアドバイスを頂けた覚えがあります。
日本の馬の獣医師が多く入会している学会は、『ウマ科学会』でしょうか。こちらは、獣医師でなくても入会可能な学会で、獣医学や畜産学に限らずウマに関わる人文科学や芸術を含めて幅広い意見交換の場となる学会です。定期で送られるHippophile(ヒポファイル) という名前の雑誌は、日本の馬の歴史や文化を知れる素晴らしい雑誌で毎回楽しみにしています。
ご興味のある方は入会されてみてください。
今年は11月27日に東京のKFCホールにて学術集会も開催される予定です。
日本産業動物獣医学会は、毎年各地で学術集会を開催しています。北海道は土地柄もあって、日本で唯一馬の発表が沢山集まる地域です。
今年の産業動物の発表演題数は74題。そのうち馬を含む発表が25題でした。様々なジャンルの発表がありましたが、寄生虫関連の発表が4題、SSI(手術部位感染症)関連の発表が4題、外科手術の成績発表が4題でした。
b16fb7fa816c6b37e4ce8e724740d235.pdf (hokkaido-juishikai.jp)
SSIはヒト医療でもとても大きな問題です。手術した部位が感染すると、治療期間は長くなり、医療費もかさみます。感染が体内に挿入したプレートやスクリューなどに波及するとさらに大変なことになります。
ヒトは術後に『患部を衛生的に管理してね』といえば、わざわざ汚したり傷を搔きむしったりしませんが、馬はそうはいきません。バンテージをしていても噛み千切る馬もいます。馬房の中で、寝ワラやオガの上にいるだけで細菌に暴露される可能性は高くなります。
また、手術前にお風呂に入ってきてもくれません。やはり、生活環境がヒトに比べるとどうしても衛生面で劣るため感染の機会は増してしまいます。
手術部位が感染しやすくなる因子は、あまりに沢山ありすぎてその評価は簡単にはできません。
NOSAI日高家畜高度医療センターの佐藤先生は、術前の消毒過程の中で細菌検査を行い、消毒方法の適正評価を行う発表
NOSAI長万部家畜診療所の川口先生は、牛の第四位変位手術の術後感染に年齢、周産期病、感染症、病態、麻酔方法、皮膚縫合法、飼養形態の7つの因子が与える影響を調査。感染と関係を認めた項目は、『併発する合併症あり』と、『フリーストールでの飼養』でした。
トータルハードマネージメントサービスの阿部先生は、立位で牛の第四位左方変位手術するさいの、ドレーピング方法の検討。手術中には牛が動くこともあるため、どうしても術野を衛生的に保つことが難しいので、術創周囲に接着剤を使用してドレープのずれを抑制する方法でした。
SHC田上正幸先生は、馬の回復手術を実施した際の術創感染に影響を与える因子を検討しました。術後感染の発生率は5.9%、手術後1週間で判明することが多く、統計解析の結果、多数の因子の中から術後頸静脈炎の発症、麻酔時間の延長の2項目がSSI発症に有意な影響を与える因子と結論付けました。
佐藤先生と田上先生の発表では、どちらも細菌培養検査結果も示されており、これらの結果を生かして、今後のSSIの予防対策を模索する段階といえます。数年後には、何かしらの改善方法でSSIが減らせたという発表を聞かせてもらうのが楽しみになる内容でした。
私は、サラブレッドの心奇形10例の報告。サラブレッドの心奇形をまとめた報告は世界的にこれまでにありません。もっとも一般的な心奇形は心室中隔欠損(VSD)と呼ばれる奇形ですが、10例の中には房室中隔欠損(AVSD)という馬では極めて稀な心奇形が3例も含まれていました。
このお話は、ちょっと深いのでまた今度。。
Mahalo