あなたの馬の飛節が腫れました。何を考えなければならないか、知ってますか?

飛節とは
飛節は、後ろ足の『く』の字に曲がっているところの関節です。人間の 【踵;かかと】にあたります。
馬によって、『折れ』の角度が全く違います。日本では、サンデー系は飛節がまっすぐ気味の馬が多いことが有名ですね。こういう作りを 直飛(ちょくひ)といいます。その逆を曲飛(きょくひ)といいます。
腫れた場所の鑑別
一口に『飛節』といっても、関節包(かんせつほう)だけではありません。飛節の周りには大事な腱や筋肉がたくさんあります。
なので、飛節が腫れたら、飛節のどこが腫れたのかを見極めることがとても大切です。
- 周囲軟部組織の腫れ : 捻挫・打撲・フレグモーネ など
- 関節の腫れ(関節液の増量) : 関節内出血・関節炎・感染性関節炎 など
- 関節の下の方の腫れ : 飛節内腫(関節症)など
- 足根腱鞘の腫れ(サラピン): 腱鞘炎 など
- 滑液嚢の腫れ : 滑液嚢の感染・滑液嚢炎 など
- その他の腱鞘の腫れ : 長趾伸筋腱や外側趾伸筋腱の腱鞘など
腫れに加えて、跛行や発熱がみられたときは、特に注意が必要です。関節炎など、可及的速やかに対処しなければならない疾患の可能性もあるので、すぐに獣医師に診てもらいましょう。それぞれに原因があり、病態の進行の程度を示していることもあります。



サラピンは、聞いたことある方もいるでしょう。滑液嚢はどうでしょうか。多くの方がご存じないのではないでしょうか?サラピンについてはまたの機会にして、今日は滑液嚢炎について。

滑液嚢(かつえきのう)とは
滑液嚢は、関節とは違いますが、体のあちこちにある袋で、中には関節液にに似た滑液(かつえき)とよばれる液体が入っています。生まれつきにあるものと、運動などで負荷がかかって後天性にできるものに分けられ、古い研究では馬の体に22もの先天性の滑液嚢が存在すると報告されています。腱や筋肉の間、腱の折曲がる場所などに主に存在します。

飛節には2つの滑液嚢があります。
ひとつは、後天性の滑液嚢の一つである Subcutaneous Calcaneal Bursa(踵骨皮下包:しょうこつひかほう)とよばれる滑液嚢です。
飛端(ひたん;飛節の後ろのかどっこ)が腫れることを 飛端腫(ひたんしゅ)といいますが、この場合、この滑液嚢の液が増えていることが多く、英語ではキャップドホック(Capped Hock)と呼ばれます。外傷や打撲に付随して起こることが多いです。
もう一つの滑液嚢は、Subtendinous(もしくは Intertendinous ) Calcaneal Bursa(踵骨腱下包:しょうこつけんかほう)と呼ばれます。アキレス腱を構成する筋肉の一つである腓腹筋(ひふくきん)と、浅屈腱の間にあります。生産地では、この部位に炎症を起こしてしまって、発熱と跛行を呈する仔馬(0~1歳)が散見されます。炎症の原因は、細菌感染によるものが多いと思われています。
鑑別方法
液が増えるので、①の軟部組織の腫れ や ③の飛節内種 との鑑別は、触れば難しくないと思います。関節液が増えると(写真)
足根腱鞘(Tarsal Sheath)は、飛節の内外と飛節の下の内側に縦に伸びる大きな袋です。(写真)
滑液嚢もも足根腱鞘も、液が増えてなければ触ることはできません。(関節は少しわかることも)



診断と治療
エコー検査で、貯留した液体がどこにあるのか(どの袋なのか)確認します。エコーの画像で、おおよその性状は予測できます。
たまった液を穿刺(針で刺して)して、液の性状を調べます。感染性の場合は、液が混濁して汚い色を(黄色っぽい)しています。顕微鏡でみると、白血球(好中球)が増えていることが特徴的です。
滑液嚢(Bursa) に 見る・’見る装置’という意味の接尾語の-scope をつけて Bursoscpe と呼びますが、やってることや、使っている器具は関節鏡(Arthroscope;関節のの接頭語arthro-)と同じです。挿入する部位によって、手術の呼び方が変わります。
内視鏡;Endoscopy 関節鏡;Arthroscopy 腹腔鏡;Laparoscopy 副鼻腔鏡;Sinoscopy
手術では、足を延ばした状態で固定します。



おそらく本邦初公開!!?? 馬のCalcaneal Bursoscopyの動画です。
馬の外科医になった気持ちでご覧ください(笑) The Surgeon’s View!!
手術後
写真の当歳馬(300Kg)は、手術した翌日から跛行がなくなり、元気にしています。感染が疑われる場合は、症状に応じて抗生物質の投与を7~14日行います。手術をせずに抗生物質のみで治療することで、絶対に治癒しないかどうかはわかりません。ですが、時間が経過すればするほど病態が悪化しますので、当院では、診断したらすぐに手術を行うようにしています。
今まで踵骨腱下包のBursoscopyを実施した馬は、全頭良くなっています。 素早い対応がカギですね。
今回もまた長い記事になってしまいました。。。。 いつもご愛読 MAHALO!!