獣医療

食道閉塞について

英語では Choke (チョーク)  とか Esophageal obstruction と表記されます。

Choke(チョーク)は、 英語では『窒息』を意味します。 ‘喉を詰まらせること’ が単語の意味の根底にあります。派生して、『管を詰まらせる』という意味もあるので、

I choked on a rice cake. ;私は餅を喉に詰まらせた  

などの使い方があります。ですが、直訳の『窒息』という単語は、日本語では、

『何らかの理由によって呼吸が阻害されること。血中酸素濃度が低下し、脳やほかの臓器に機能障害を起こした状態』を言います。 馬はヒトとくらべて 喉・食道・気管 の構造が違うので、食道に物が詰まっても呼吸ができます。ですから、窒息にはなりません。

もうひとつ、言葉の問題があります。理由はわからないのですが、十数年前、日本の獣医さんは なぜかこの食道閉塞を 『食道梗塞(こうそく)』 と言われる方がすごく多かったのです。今でもいらっしゃるのか知りませんが。。。

『梗塞』とは、血流が途絶(とぜつ;流れなくなること)することで、その血管の支配領域臓器が損傷を受けることを意味します。

まぁ、粘膜が圧迫性に虚血状態になるからなのか… とにかく『梗塞』は明らかに間違いなので、使わないようにしましょう。 前置きが長くなりましたが、この食道閉塞。あまく見たら駄目な疾患です。すぐに獣医師に連絡しましょう。

症状

  • 食餌中に、突然食べることをやめる。
  • 頭をかしげたり、上下に振る。首を伸ばしたり、咳をしたり、むせたり、吐いたりする。
  • 咳をしながら、食べ物をまき散らす
  • 口から大量の泡やヨダレを流す。
  • 鼻から餌や液体(唾液など)を吹き出したり垂れ流す。
  • 苦しそうになる。発汗や前カキなど、疝痛のような症状を示す。

症状をみたらすぐにすること

  • 獣医師にすぐ連絡してください。
  • 餌や水、時には寝ワラなど、口にできるものはすべて排除しましょう。
  • 口カゴをつけてもかまいません。
  • 放牧している場合は、馬房にいれましょう
ミニチュアポニーの食道閉塞を起こしていた ニンジン
食道閉塞を起こしたビートパルプ

食道閉塞を起こした切草

治療

胃カテーテルを閉塞部の手前まで挿入し、水を入れて閉塞部の疎通を促します。

この際に大切なことは、深めの鎮静をかけて頭を下げることです。胃カテーテルを挿入するためには、ほとんどの馬で鼻捩子(びねんし:ハナネジ)が必要ですが、頭が上がってしまうとカテーテルから入れた水が喉に逆流したときに誤嚥してしまう可能性があります。誤嚥(ごえん)とは、水や食べ物が気管の中に入ってしまうことで、それによって肺炎を引き起こし、時には生命の危険に直結することもある極めて重大な疾患です。

閉塞部を疎通させるためにはある程度の水圧は必要ですが、カテーテルから大量の水を一気に流し込むことも、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があるので要注意です。疎通させるために、時には1時間以上を要することもあります。

どうしても閉塞部が解除されない場合は、内視鏡検査を行います。内視鏡で見ながら、水をかけたり、道具を使って閉塞したものを取り除く処置を行います。ほとんどの症例は、これで疎通しますが、それでもダメな場合は外科手術が必要となります。

馬の場合、食道閉塞では窒息死しないと書きましたが、どうして急いで治療する必要があるのでしょうか。

発症から12時間で来た症例
発症から約48時間で来た症例

食道の粘膜は、綺麗なピンク色をしています。ですが、これらの写真は、閉塞によって粘膜が障害され、粘膜が剥がれているのがわかります。このような変化を起こしてしまうと、また容易に詰まってしまうことになります。

 発症して48時間経過して搬送されてきたこの馬は、48時間の絶食をさせましたが、通常通りに草を食べられるようになるのに5日を必要としました。そして、その1週間後に再び同じ部位で食道閉塞を起こしてしまいました。

 ですから、食道粘膜の損傷が酷くならないうちに、できるだけ早いうちに処置をする必要があるのです。

治療後の餌について

閉塞を解除できた後も、十分な経過観察が必要です。最も注意が必要なことは、再発と誤嚥性肺炎の併発です。

誤嚥性肺炎の最初の症状は、発熱です。そのほか、咳・鼻水・異常呼吸などを認めるかもしれません。非常に危険な病態ですので、多くの場合、食道閉塞の治療後に獣医師は抗生物質を数日間投与します。同時に、粘膜の炎症をとるためにバナミン(フルニキシンメグルミン)のような非ステロイド剤を投与することも多いですが、発熱の症状を隠してしまう可能性もあります。毎日の検温は、バナミンの投与前に行うことが良いかもしれません。

給餌のタイミングについては、個々の症例によって異なります。粘膜の損傷が激しい症例、経過の長い症例、再発の症例に関しては、より慎重に絶食の時間を長くとった方が良いでしょう。

一般的には、乾草飼料や牧草を避けて、大量の水分でふやかした濃厚飼料やペレットなどをスープ状にして与えます。この方法は理想的なのですが、困ったことに食べてくれない馬もいます。基本的に、詰まっていたものと同じものを最初から与えるのはやめた方が良いでしょう。どうしてもそのような飼い葉を食べてくれない馬に対しては、青草などをやはり水につけて少量ずつ与えたりします。与えるものも大事ですが、一度に与えすぎないことも重要です。糖蜜のかかった切草などは、咀嚼回数少なく、一度に食べてしまう可能性があるので注意が必要です。ガツガツ一気に食べてしまう馬は、飼い桶のなかに大きな石を入れて、ゆっくり食べるように促してあげます。

最後になりましたが、もうひとつ大事なことがあります。食道閉塞を発症する馬は、歯列が整っていない馬が多い傾向にあります。落ち着いたら、歯医者さんに一度見てもらった方が良いでしょう。

最後に

 馬の食道閉塞は、すぐに獣医師に連絡して処置をしてもらうべき疾患です。疑わしい症状を見つけた際は、すぐに獣医師に連絡しましょう。

 ※口周りに大量の泡があっても食道閉塞とは限りません。。。急性心不全でも似たような症状があらわれます。それについては、また後日。。。