便秘とは、『本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態』です。
つまり、食べたものがボロになるまでの過程で、流れが悪くなる、あるいは完全に詰まってしまうような状態を意味します。
詰まる原因(物)によって、
食渣(Feed impaction)、
砂(Sand impaction)、
腸石(Enteroliths) などに分類されます。
この中で最も一般的な原因は 食渣 による便秘です。馬に起こる疝痛の原因として、痙攣疝に続いて 2番目に多い原因だと言われています。
今回は、
- 馬の便秘とはどんな病気?
- どんな症状なのか?
- 診断方法と治療法は?
- 発生・再発防止のための管理方法
などについてご紹介します。
(もう少し詳しく勉強したい方や、獣医師向けは近日中に投稿予定です。)
馬の腸管
馬の腸管はとても長いことが良く知られています。
成馬の小腸は十二指腸から空腸・回腸あわせて約20m程度あります。
そのあとに盲腸・結腸・直腸と続きます。

最も便秘が起きやすいのは、左腹側結腸の結腸骨盤曲と呼ばれる部位です。
右背側結腸や横行結腸で起こることもあります。
1歳未満の馬ではほとんど起こりませんが、ミニチュアホースでは仔馬も発生します。
症状 と 発症要因
一般的に軽度から中等度の腹痛を示します。鎮痛剤の投与に反応し、痛みが一時的に消えることがあります。
ボロの量は一般的に減少し、バイタルサインは正常からわずかに上昇する程度です。
聴診では腸蠕動音の減少や欠如がみられます。軽度から中等度の腹囲膨満(おなかが張る)を示す馬もいます。
発症から2週間以内の飼養管理方法の変更、運動制限などが素因となります。
具体的には、餌の変更、濃厚飼料の多給、駆虫薬の投与、歯の治療の不備、気候変化に関連した飲水量の低下、長期入院、全身麻酔などがあげられます。
飲水量も含めて気候の影響があるため、北半球では冬季の発生が多くなります。
診断
獣医師は、上記の症状や、発生状況(素因がないかどうか)、から便秘を疑います。超音波検査で、明確に便秘と診断できることはありません。便秘に伴う、あるいは 便秘を伴う 結腸の変位がある場合は、超音波で診断できることもあります。
馬の結腸は大きく、腹腔内の多くを占める消化管です。正常な位置から異なった場所に移動してしまうことを 結腸変位(へんい) といいます。
左の背中側に移動したら 左背方(はいほう)変位、 右の背中側に移動したら右背方変位と呼びます。このように位置が変わってしまうことで、消化管内容の通過が阻害されるため、二次的な便秘をともなうことが多々あります。
直腸検査で、便秘塊を触ることで診断します。便秘の部位によっては、手が届かないこともありますので、便秘塊を触らないから便秘ではないとは言えません。

治療
内科的治療と外科的治療(開腹手術)があります。
もちろん内科治療で解決すれば良いのですが、長期間に及ぶ内科治療に反応しない場合は、結腸破裂のリスクが上昇しますので、遅滞なく手術を行う必要があります。
~ 内科治療 ~
内科的治療の柱は以下の 5項目です。
①絶食
②経腸補液
③静脈輸液
④下剤
⑤鎮痛
① 絶食
便秘が解消されるまで(一定程度の安定した排便がみられるまで)絶食する必要があります。便秘があっても食欲をみせる馬もいますが、便秘の塊がさらに大きくなりますので、絶対に与えてはいけません。獣医師の指示を待ってください。
② 経腸補液
胃カテーテルを挿入して、水を投与する(胃に入れる)方法です。消化管に直接的に液体を投与することができ、結腸の運動性を刺激します。費用も安価ですみます。
③ 点滴(静脈補液)
一般に、24時間以上の治療に反応しない馬(発症から時間の経過した馬)あるいは、脱水した馬、胃内容逆流があって経腸補液ができない馬におこなわれます。
点滴と、経腸補液のどちらが腸管に水分を増やすことができるのかを、4頭の馬で比較した研究があります。(Lopes et.al. 2002)
➡ この研究では、経腸補液の方が、腸管内の水分量が優位に上昇していました
何度も胃カテーテルを入れられることを嫌がる馬もいます。また、一度に沢山の量の水分を投与するよりも、持続的にゆっくり与えた方が良いので、

こんな製品があります。 細いチューブを胃に通して、水を少しずつ流し込みます。
④ 下剤
硫酸マグネシウム・硫酸ナトリウム・流動パラフィン、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(DSS)などが一般的に用いられます。
これらの薬剤は、腸管内の水分量を増やす効果がありますが、その水分は体内から補われるため(腸管内に体内の水を引っ張りこむ)、脱水した馬に用いるべきではありません。
⑤ 鎮痛
みなさんがよくご存知の『バナミン』はフルニキシンメグルミンという薬剤です。静脈投与でも、経口でも腸管閉塞の馬の鎮痛効果を得ることができます。過剰投与は、胃潰瘍、腎乳頭壊死、右背側結腸炎につながります。その他にも、フェニルブタゾンや、ケトプロフェンといった薬も用いられます。
鎮痛薬として用いられるキシラジン・メデトミジン・デトミジンなどのα2受容体作動薬も、鎮痛薬として用いられます。ですが、それらの鎮痛効果は作用時間が短く、腸管運動抑制の影響は鎮静や鎮痛効果よりも長くでてしまいます。
リドカインの持続点滴投与×24-36時間 は、未だ議論の余地がありますが、鎮痛効果があるとされています。
~ 外科的治療 ~
気腸の持続と進行・変位を疑う、痛みのコントロールができない、循環器系のパラメータの悪化、腸管運動の減弱を認める場合、外科的手術の適応となります。
長期間の便秘の存在は腸管の状態を悪化させ、手術時の腸管破裂にもつながります。むやみに長期化させず、必要に応じて手術をすることも重要な判断です。
手術では、結腸の骨盤曲を切開して便秘塊を排出させます。
あまりに便秘塊が硬い場合は、切開部からホースを腸管内に挿入して、便秘塊を崩して排出させます。
再発を防ぐ管理法
便秘を予防する管理方法
餌・水と歯の管理
高品質の粗飼料と十分量の清潔な水を与えましょう。寒い時期は、温かい水を与えると飲水量を増やせることがあります。また、水に電解質を加えると、飲水量が増えることもありますが、電解質の入った水を嫌がる馬もいますので、与えるのであればどちらも飲めるようにしましょう。
便秘の原因となる歯の問題を避けるため、定期的な歯科検診を受け、適切な治療を受ける必要があります。歯が抜けている高齢馬は、餌の乾草を高齢馬用のコンプリートフィードに置き換えることもあります。
馬によっては、茎の長い乾草よりも、ペレットを与えたほうがよい場合があります。ペレットは一度噛むと非常に小さな粒子になるので、便秘による疝痛のリスクを軽減することができます。
ペレットは、十分量の水に浸して与えるべきです。
そうすることで、水の摂取量を大きく増やすことができます。
塩分と水分補給
塩分(ナトリウム)の摂取は、飲水を促すのに役立つので、馬に十分な塩分を毎日摂取させるようにしましょう。
馬のナトリウム源として鉱塩を利用することもありますが、鉱塩から十分量の塩分を摂取している馬は少ないと思われます。例えば、500Kgの馬の必要(維持)ナトリウム量は、1日に約28gです。つまり、ブロック状の塩を毎月900gも消費する必要があるということです。日本の厩舎で一般的によく使用されている鉱塩は5Kgのものが多いともいますが、いかがでしょうか。十分量取れていますでしょうか?そうでないのであれば、毎日大匙2杯の塩を与えるほうが、確実だと思われます。
また、高齢馬など、関節に慢性の痛みを抱えている場合、水場まで歩くのを嫌がることがあります。周りに水場をいくつか用意する、乾草を与えるときは近くに水を置く、などの工夫をすると、より多くの水を飲むようになるかもしれません。
乾草の浸漬
便秘しやすい馬にとって、乾草を水に浸すことが有効となります。水をたくさん飲まなくても、水の摂取量を増やすことができ、乾草を柔らかくして噛みやすくすることができます。
特に高齢馬では、仮に歯が健康であっても、顎の力が弱く、若い頃に比べて草をすりつぶしたり噛んだりする力が弱くなっている可能性があります。
咀嚼が不十分であると便秘の危険性が高くなります。乾草を浸して柔らかくすることは有効です。また、より柔らかく、茎の少ない乾草を与えることも、効果的かもしれません。
運動
運動は消化を助けるので、馬に十分な運動をさせるようにしましょう。高齢の馬は、関節の痛みや乗馬を引退しているため、動きが鈍くなりがちです。獣医師に馬を診てもらい、関節に違和感がある場合はサポートしてもらいましょう。
馬を外に出していない場合は、少なくとも毎日の曳き馬や、ロンジングで散歩させることを検討してください。
Mahalo