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初乳と仔馬の免疫について

 そろそろ仔馬が産まれたという声が少しずつ聴こえるてくる時期となりました。生まれたての仔馬はとってもかわいいですよね。 まだまだ本格的なシーズンではありませんが、しばらくは仔馬や繁殖にまつわるお話もしようと思います。

仔馬たちは、生まれて2時間もすれば立ち上がって母乳を飲み、馬房の中を歩き回るのですから、驚くべき適応力と言えます。

ほほえましい光景ではありますが、仔馬の周りは雑菌だらけ。

(あなたの牧場が汚いと言っているわけではありません。環境中(空気や土・馬服・母馬の体表など)には多くの細菌やウイルスが潜んでいます) 

これらから生体を防御するシステム ‘免疫’ の移行方法が、馬とヒトでは異なるのを知っていますか?

今回は、仔馬の免疫を語る前に、免疫にかかわる 胎盤 のお話

母子免疫

 母子免疫(ぼしめんえき)とは、免疫機能が未熟な新生児が感染から免れるための感染防御機構です。

母から子への免疫グロブリン(IgG)の移行は、

①胎盤を介しての移行 と ②初乳を介する移行  の2つの経路があります。 

これらは、動物種によって移行方法が異なります。

馬は、初乳を飲むことでしか母子免疫を獲得できない動物です。どうしてでしょうか。。

そこには、動物種による胎盤構造の違いが影響しています

胎盤のつくりの違い

胎盤(たいばん)は、お母さんと胎児をつなぐ大事な組織です。子宮の中で仔馬を包んでいます。胎盤の中には無数の血管が張り巡らされていて、以下の働きをしています。

1:妊娠状態を維持するためのホルモン分泌

2:仔馬の呼吸の補助(羊水に浸かっている仔馬は肺呼吸ができないので、母馬から酸素をもらっています)

  母馬から仔馬へ酸素を供給、仔馬から母馬へ二酸化炭素を戻す

3:母馬の血液中の有害物質が仔馬へ移行しないようなバリアーの役目

4:母馬の血液中の栄養分を仔馬へ受け渡して胎児の成長を促す

5:胎児の老廃物を受け取る

胎盤には大きく2つの分類方法があります。

  1. 絨毛膜絨毛の分布に基づく携帯による分布 ; 絨毛膜絨毛の分布様式によって、肉眼的に4型にわけられます
  2. 接触の様式による分類 ; 絨毛膜と、子宮内膜の接触の構造によって5型にわけられます
獣医繁殖学 第2版 より

②の『接触様式による分類』は、母体側の胎盤組織の厚さが関わっていて、表の上から下に行くにつれて胎盤が薄くなっていきます。つまり、母体胎盤と胎児胎盤がより近く密接だと言えます。

馬は、この表の一番上にありますね。動物種の中で一番母体胎盤が厚い構造をしてます。

ですから、胎盤を通しての免疫の移行が難しく、出生後に初乳から受け取る必要が出てくるのです。

胎盤構造の薄い ヒトやサル は、その多くを胎盤から受け渡します。

犬・猫は、その中間くらいです。胎盤からも、初乳からも子供に免疫グロブリンが移行します。

ちなみに、ヒトは胎盤から IgG と呼ばれる免疫グロブリンを受け渡しますが、初乳には IgAという別の免疫グロブリンを多く含みます。 

胎盤で免疫が移行されない 馬や牛は、初乳中の免疫グロブリン(IgG)が高くなっています。

初乳

 馬の初乳は、ドロッとしていて、ベタベタ、黄白色の乳です。栄養価が高く、蛋白・脂質・ビタミン・糖・ミネラルなどが通常の母乳よりも多く含まれています。

蛋白の中には、母馬の免疫グロブリンI(IgG)を多く含みます。生体が外敵から体を守る免疫システムは、液性免疫と細胞性免疫に分けられますが、この免疫グロブリンは液性免疫を担う重要なたんぱく質です。

妊娠馬は、妊娠の最後の数週間の間に、血液中のこれらの免疫グロブリンを選択的に母乳に濃縮させます。

母から子への最初の贈り物。初乳由来の母子免疫は6~12週間続きます。

その間に、仔馬の免疫システムが機能して、自分で自分の体を守れるようになるのです。

この「母体免疫」(母馬からの免疫)は6~12週間続き、その間に子馬自身の免疫システムが機能し、正常であれば自分で免疫を獲得できるようになります。

つまり、仔馬が自分で自分の体をまもれるようになるまでは、母馬からのプレゼントで外敵から身をまもるのです。ですから、良質の初乳を十分な量飲む必要があるのです。

免疫グロブリンの吸収

正常な仔馬は、生後1~2時間以内に立ち上がって授乳します。

出生後しばらくの間、新生仔馬は大きな免疫グロブリン蛋白を小腸壁を越えて血流に吸収することができます。免疫グロブリンの吸収は、出生後6〜8時間以内が最も効率がよく、24時間を過ぎると腸の変化により、腸壁を越えての免疫グロブリンの吸収ができなくなってしまいます。

一般に、子馬は約 2-4 リットルの良質の初乳を摂取する必要があると言われています。

先ほどから出ている乳の ’質’ は、 Brix値(糖の含有量の指標)測定が最も簡便で用いられている方法です。

20%以上のBrixを有する 初乳が 良質 と言えます。

仔馬に十分量の免疫が移行できたかどうかを判断するために血液検査を実施します。

出生後8~12時間の仔馬の血液中のIgG測定を行います。

800mg/dL以上 なら 正常

400~800mg/dL 部分移行不全

400mg/dL 以下であれば 移行免疫不全 と診断されます。

24時間を超えて 移行免疫不全と診断されると、 初乳を飲んでも小腸から免疫グロブリンを吸収できないので、血漿輸液などの処置が必要となってしまいます。

極力早めに仮診断を行うか、母馬の初乳の質が悪い場合には 凍結しておいた良質な初乳を事前に与えることが効果的です。

凍結初乳

良質の初乳を出してくれる繁殖がいます。

そこから200~300㏄の初乳を分けてもらって冷凍保存しておくと、初乳の質が悪かった母馬の仔馬に与えることが可能です。

採取する際は、できるだけ衛生的に。

解凍は、常温~ぬるま湯でおこないますが、保存期間の目安はおおむね1年です。