馬好きな私たちは、馬と一緒に過ごす時間が我々に素敵な時間をもたらし、安らぎを与えることを知っているし、感じています。ホースセラピーの様々な効果を実体験した方も少なくないでしょう。
日本で定着している ホースセラピーの呼称ですが、 EAAT(Equine Assisted Activities and Therapy)と表記されることも多いようです。このEAATですが、良さそうなことはわかりますが、本当にそうなのでしょうか?
その効果について、研究した内容を簡単にご紹介します。
EAATの効果の評価について
Betsy Kemeny准教授(ぺンシルバニア・スリッパリーロック大学)らは、自閉症スペクトラムの子供や若者にとって有益であると考えられているEAATの効果について、笑顔などの測定できない評価方法ではなく、数字で証明することを試みました。
自閉スペクトラム症(Autisum Spectrum Disorder ; ASD)は、相互的対人関係およびコミュニケーションの質的異常と、興味の限局や行動のパターン化を主な特徴とする発達障害です。以前は広汎性発達障害とよばれ、分類に 自閉症 や アスペルガー症候群が がありましたが、現在では、これらすべてをまとめて 自閉スペクトラム症と呼ぶようになりました。 症状名であり、病名ではありません。 一部は個性としてとらえられ、そうでない場合は、社会から孤立してしまい生き辛いと感じる方もいます。
この研究は2017年3月から2018年4月に、ASDと診断された27人(13~22歳)を対象としておこなわれました。10週間ごとに、対象群(無治療)、ハートマス群(既に効果の証明されている呼吸法などの手法)、EAATを交代しました。
そして、ストレス反応の指標として、唾液中のコルチゾールレベル測定して評価しました。
その結果、治療用乗馬は ハートマス法 と同等程度のストレス軽減効果を有することがわかりました。
また、同時に測定した介在馬のコルチゾールレベルは、概ね上昇を認めませんでした。
(騎乗者が最初に速歩を練習したときだけ上昇がみられました。)
特に思春期の自閉症スペクトラムの患者は、過大なストレスや不安が社会生活に影響していると考えられています。
すなわちこの研究は、EAATがASDと診断された人々の社会適応につながる役割を果たせる可能性について明らかにしたものです。
Horse and Humans Research Foundation(HHRF)という財団があります。この財団は、馬に支援された活動や療法の効果を感じられるけれども、まだ科学的な根拠のない分野の研究を支援することが目的です。今回紹介したこの研究も、この財団からの支援が行われています。
ヒトだけではなく動物のことも考えた介在運動
動物の介在する運動を中心に、ヒトと動物の関係性に注視した
IAHAIO( International Association of Human-Animal Interaction Organization: 人と動物の関係に関する国際組織 )という組織があります。IAHAIOは、
人と動物の相互作用の分野を進歩させることに関わっている団体による主要な世界的組織
(以下抜粋・要約)
・動物の介入や交流の際に、きちんとした責任のある人と動物の接し方を勧めることを目的としている。
・人と動物の相互作用の分野の人々に、国際会議やワークショップを開催し、情報交換や、この分野の重要な問題の提起をするために対話の促進・情報交換・戦略の立案を目的としている。
IAHAIOの使命と未来像 より
ガイドラインには、人の福祉と同様に、動物の福祉についても言及しています。それによると、
- 心身ともに健康で、このような活動を楽しむことができる動物によってのみ活動を行う。
- ハンドラーは介入に参加している個々の動物についてよく知っている義務がある。
- 種に関わらず参加している動物は、単なる道具ではなく生き物であることを理解しておかなければならない。
- 動物の安全性や安心感を脅かすような形で活動が行われるべきではない
人と同様に動物の福祉を考えることで、AAI(動物介在介入)が持続的な活動となり得るという理念に基づいています。どちらかに一方的に過度な負担をかけさせないという 持続可能な という概念が素晴らしい。 人と動物の共生から得られるものを、治療の一環として価値化 しようと考えられています。
また、現実を見据えたうえで、介在活動の効果や危険性、および介在動物そのもののハンドリングやストレス状態などについての専門知識を持つ、教育をきちんと受けた人が指導することが推奨されています。
さいごに
皆が感覚的にわかっていたことを、今更?と思わずに数値として証明できたことは、馬が社会貢献できる可能性ついて証明したことであり、価値のある研究だと思います。
帯広畜産大学では、2014年から馬介在活動室を設置し、障がい者への乗馬体験事業などを通じ、サポート職員への教育活動だけでなく、それを支える専門の乗用馬生産も行われています。
障がい者の生涯学習支援活動に係る文部科学大臣表彰を受賞しました。
馬の繁殖学を専門とされる 南保泰雄教授 が主導で行われているこの活動は、その理念に賛同した多くの方々に支えられ、昨年に老巧化した施設の改修をすすめておられました。
9月中旬にはその進捗状況報告がありましたので、そろそろ完成が近いのではないでしょうか。今から楽しみです。
このような社会的動きが、日本でも活性化することは、とても喜ばしいことだと思います。
日本に飼養される馬のほとんどを占めるサラブレッド種は、ご存じの通り、一般的には温厚とされる品種ではありません。ですから、このような活動にどれだけ直接的に貢献できるかはわかりません。
ですが、直接的ではなくとも、人と馬が関わる機会が増えること・馬の社会的価値が認められること・馬がいる社会で育った子供たちが増えること、馬に興味を持つ人が増えること などが、今後の日本の馬の飼養環境や医療環境を支える基盤となってくれるのかもしれません。