管理

高齢馬の歯について

 馬は、繊維質の食物を食べます。ヒトと違って、奥歯ですりつぶして繊維を短くする食べ方をするので、奥歯(臼歯;きゅうし)は常にすり減ってしまいます。

 その歯の摩耗を補うために、馬は一生涯にわたって長期間、伸び続ける歯をもっています。それによって、上の歯と、下の歯がしっかりと直接当たるようになり、草を切ったりすりつぶしたりできるようになります。

馬の顎の形が歯のすり減り方に影響する

馬の顎は上と下で幅が異なります。

上顎は下顎よりも幅が広いため、歯の咬合面(歯と歯がぶつかり合う表面)のすべての面が上と下で擦り合わされるわけではありません。

そのため、研磨される表面だけすり減り、『上の歯の外側』と『下の歯の内側』だけがシャープに過成長したような形になり、頬の内側や舌を傷つけてしまいます。

また、カケス(上顎が下顎よりも前にでっぱった状態=Parrot mouth)のような構造上の異常を持つ馬は、臼歯の一番前と一番後ろが尖ってしまうことが知られています。これもそのままにしておくと、歯肉を傷つけてしまいます。

小さな問題のうちに対処が必要

 歯が伸び続ける馬ですが、高齢(20歳頃)になると歯肉から出て見える歯の長さが1cmちょっとしか残っていないことがあります。

20代後半から30代前半には、硬いエナメル質がすべて磨り減ってしまいがちです。そのため、柔らかい歯根だけが残り、食べ物を噛むことがだんだん難しくなり、歯周病が進行しやすくなります。

また、高齢の馬では、‘Wave’あるいは‘Step’と呼ばれる異常をよくみます。

これらは、咬合するべき上(または下)の歯が欠損したり偏摩耗した結果として、反対側の顎の歯が過剰に成長した結果、他の歯が正常に噛み合えなくなる状態です。

他にも、加齢に伴って歯の中心部にある漏斗部が腐敗し、歯の外側の縁が鋭く尖ることがあります。それに伴い、歯根膿瘍の発生により副鼻腔炎になることもあります。歯根からの感染が広がった副鼻腔炎の症状としては、『悪臭のある片側性の鼻汁』や『痛みを伴う顔の腫れ』などがあります。

このような歯の異常が生じると、咀嚼が十分にできません。つまり、草の繊維が長い状態で消化管へ送られてしまいます。咀嚼の回数が減ってしまうことで、唾液の量も減少します。唾液が減ると、胃への食物の搬送や、胃の粘膜保護といった唾液の働きも阻害されることになります。その結果、高齢の馬は体重が減りやすいし、食道閉塞(食道に食べ物が詰まる)や疝痛といった問題が起きやすくなります。

冷たい水を飲むのを嫌がるような神経痛のような症状が出ることもあります。

歯の問題を疑う症状

どのような時に歯の異常を疑った方が良いのでしょうか?

歯の異常をもつ馬の典型的な症状は、食欲減退・嚙みこぼし(食餌中に草を口から落とす)、口臭がする、頭を振る(ヘッドシェイキング)、乗ることに抵抗しだす、などです。可能であれば、これらの症状が発現する前に、定期的な歯の検査をお勧めします。

普段から、ボロの中に含まれる繊維の長さを観察しておくことも役に立ちます。長いものが増えたときは、要注意かもしれません。

歯の病気の兆候は実は多様で、見過ごされたり、他の原因を疑われたり、単に悪い行動と見なされたりすることもあります。

Behavioral Signs Associated With Equine Cheek Tooth Findings

                           J Equine Vet Sci. 2023 Feb;121:104198.
 

 フィンランドのヘルシンキ大学からの報告。

5~28歳までの、183頭の馬において臼歯の検査を行ったところ、95%の馬において何かしらの異常所見が見つかりました。検査結果から、痛みの伴う可能性のある異常所見のある馬とない馬の群に分けました。

同時に、馬の飼い主に35項目の症状に関するアンケートを行い、その結果に基づいてアンケート結果を3つに分類しました。

みられた異常は、虫歯・歯の亀裂、歯の間隙、歯の破折などで、問題を認めなかった馬はたったの9頭でした。当然のことながら、この9頭のアンケート結果は、歯の異常を疑うような症状は多くありませんでした。

一方で、異常を認めた馬の群はアンケート結果で多くの症状がみられる傾向にありました。」

アンケートで、調査された主な項目は以下の通りです。

食べるのが遅い、草を落とす、草を食べている途中で止まる、頬に草をためる、草を食べながら頭を回す、飼い葉をこぼす、草を水につける、冷たい水を飲みたがらない、

ハミを嫌がる、手綱の左右のコンタクトが異なる、頭を振る、口を開ける、頭絡を嫌がる、舌をたらす、

運動を嫌がるようになる、ヒトや馬に対しての態度が悪くなる、頭を触られるのを嫌がる、

疝痛、体重減少

などなど…

最低でも6カ月~1年に1度は獣医師か歯医者にチェックしてもらい、歯の病気を早期発見し、痛みを伴う症状を予防することが良いでしょう。

Mahalo