再発を防ぐ新しい治療への第一歩
以前このサイトでは、馬の心房細動(AF)とはどのような不整脈なのか、またその治療として行われる**キニジンによる薬物的除細動とTVEC(経静脈電気的除細動)**について紹介しました。
👉 心房細動そのものについて知りたい方はこちら
馬の心房(しんぼう)細動
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馬の心房細動の治療|キニジンと電気的除細動について
TVECは非常に高い確率で心房細動を止め、正常なリズムである洞調律へ戻すことができる治療です。
しかし、ひとつ問題があります。
「心房細動を止めること」と「心房細動が起こる原因を治療すること」は同じではありません。
TVECはいわば、乱れてしまった心臓の電気活動をいったんリセットする治療です。
一方で、
「なぜ、その馬では心房細動が始まるのか?」
その原因となる場所そのものを探し出し、治療しようという方法がカテーテルアブレーションです。
実は前回の「馬の心房細動の治療」の記事でも、
人では肺静脈周囲を電気的に隔離する「肺静脈隔離(PVI)」がAF治療として確立しており、将来は馬でもこのような治療が可能になるかもしれない
と紹介しました。
そして2026年。
まさにそれを実際の心房細動の馬で行った研究が報告されました。

ベルギー・Ghent UniversityのEquine Cardioteamから発表された、再発性・持続性心房細動の馬7頭に対する**三次元電気解剖学的マッピング(3D EAM)と高周波カテーテルアブレーション(RFCA)**の報告です。
今回はこの論文を紹介します。
これまでの治療と、アブレーションの違い
馬のAFに対しては、主に
- キニジンなどによる薬物的除細動
- TVEC(経静脈電気的除細動)
が行われます。
TVECでは、心臓の近くまで電極カテーテルを進め、全身麻酔下で電気ショックを与えて洞調律へ戻します。
TVECについては、実際のカテーテル配置や治療の様子も含めて以前の記事で詳しく紹介しています。

TVECによる除細動成功率は非常に高い一方で、洞調律へ戻ったあとにAFが再発する馬がいることが問題になります。
TVECとアブレーションの違い
TVEC:起こっている心房細動を止める
アブレーション:心房細動を起こす原因となっている場所そのものを電気的に隔離する
では、どこをアブレーションするのか?
今回注目されたのは、
**後大静脈(caudal vena cava)と肺静脈(pulmonary veins)**です。
人の心房細動では、肺静脈周囲から発生する異常な電気刺激が、AFを始める重要な「引き金」になることが知られています。
馬でも、後大静脈や肺静脈にAFの発生・維持に関係する領域が存在する可能性があります。
ちょっと獣医学 心筋スリーブとは?
心房の筋肉は、血管の入り口で完全に終わっているわけではなく、一部は血管の中へ袖(sleeve)のように伸びています。
これを**心筋スリーブ(myocardial sleeve)**と呼びます。
この部分から異常な電気刺激が発生すると、AFのきっかけになる可能性があります。
馬では肺静脈だけでなく後大静脈にも心筋スリーブが存在することが知られています。
3Dマッピングで「電気の地図」を作る
今回使用されたのが、3D EAM(三次元電気解剖学的マッピング)
心臓の中でカテーテルを動かしながら電気信号を記録し、
- 電気が伝わりにくい場所
- 電位が低い場所
- 心筋スリーブ
- 異常な電気活動
などを立体的に表示します。

つ
後大静脈
7頭すべてで後大静脈周囲を調べたところ、
7頭中6頭で、不整脈に関係すると考えられる領域が確認されました
これら6頭では後大静脈周囲を高周波でアブレーションし、全頭で目的とした電気的隔離に成功しました。
肺静脈
肺静脈を詳しく調べられた馬は少数でしたが、肺静脈にも心筋スリーブや低電位領域が確認されました。
さらに1頭では、
肺静脈口IVの心筋スリーブから、速い異常な電気活動が実際に記録されました。
これは、
馬でも肺静脈がAFを始める「トリガー」になる可能性
を示す、とても興味深い所見です。
馬では治療そのものが難しい
肺静脈は左心房につながっています。
そのため肺静脈を治療するには、右心房から心房中隔を通って左心房へカテーテルを進める
経中隔穿刺(transseptal puncture)が必要になります。
馬では肺静脈へのカテーテル操作が難しく、今回の研究でも、1回の手技ですべての肺静脈をマッピングし、必要な部位をアブレーションすることはできませんでした。
では、AFの再発を防ぐことができたのか?
| 経過 | 頭数 |
| 洞調律を維持 | 2頭;(14か月と47か月) |
| 再発 | 5頭;(2日、6か月、11か月、11か月、30か月後) |
。
注意
今回はわずか7頭で、しかも全頭が再発歴のある持続性AFでした。
また、すべての馬ですべての肺静脈を治療できたわけではありません。
そのため著者らも、今回の研究だけではアブレーションの再発予防効果は証明できないとしています。
まとめ
今回の研究は、馬の再発性・持続性AFに対して、
3Dマッピングで不整脈に関係する場所を探し、その場所をカテーテルアブレーションで治療した最初の報告
でした。
まだ7頭という小さな報告で、治療効果が証明されたわけではありませんが、
① 7頭中6頭で後大静脈周囲に異常な領域が見つかったこと
② 肺静脈から実際に異常な電気活動が記録されたこと
は、臨床的意義が非常に高く、
「AFを止める治療」 から、
「AFが起こる場所を探して治療する」
という次の段階を示す 歴史的重要な報告でした。
現段階では、一般的なAF治療というより先進的な治療法ですが、数年後に国内でも可能になっていると良いですね。。
Mahalo




