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ボロした後に汚れやすい馬

健康な馬のボロは一定の水分を含んで丸く、硬すぎず。馬房やパドックに小山になって落ちています。

正常なボロの山があるのに、排便後に飛節や尻尾が汚い汁で汚れている馬をみたことがありませんか?

正常なボロの排便前・途中・直後に肛門から水様便(汁)が一緒に排出される症状のことを指す言葉です。

近年になって世界中で認知が広まってきました。

比較的珍しくなく一般的な症状ですが、原因についてはほとんどわかっていません。

今回はそんなFFWSについて

Free Fecal Water Syndrome とは

感染性の下痢・大腸炎などの場合、排便されるボロは液体で、固形が混ざることはありません。

 一方でFFWSでは、固形のボロも同時に排便されます。

症状はヒトの機能性胃腸障害(FGID)に似ていますが、、後肢にかかったボロ汁が皮膚に炎症を起こすことなどが問題となったりします。

 数日で自然治癒することもあれば、数年続くこともあります。

 ボロの語源は Ball(ボール) との説もありますが…果たして。 英語でボロはいろんな言い方があります。 Horse Apples もその一つ。 ほかにも

Horse Droppings など、色々あります。

Pee はオシッコです。 Poo がウンコ。

診断

FFWSの診断は、下痢と同じアプローチをしますが、その鑑別は難しいことがあります。

 血液検査・糞便虫卵検査・下垂体機能異常(PPID)のホルモン検査・腹部超音波検査・直腸検査・胃内視鏡検査 などから、感染・寄生虫・炎症性腸疾患・腫瘍などの可能性を除外します。

 年齢・品種・胃腸疾患の病歴・餌の内容・生活スケジュール調査・生活変化の有無(運動・群れ・餌の内容など)、何かしらのストレスや不安の有無

 このような項目をよく聞いて、関連性を疑います。

FFWSの馬は、それ以外の症状を呈することはなく、一般的に健康そうに見えます。

一般的な症状

下痢で診られるような削痩(やせること)などの深刻な健康問題はありません。

正常な固形の便と一緒に(前・途中・後)、水分が排出されることに加えて

  1. 後肢・尾・肛門周辺に便の液体がしみ込んでいる
  2. 後趾・お尻周囲の皮膚炎
  3. 排便時の不快感 / 排便後に尻尾を振る
  4. 排便後に後肢を踏みつける
  5. 馬房の壁や敷料が糞尿で汚れやすい
  6. 腹部膨満

などです。

原因

FWSに関する調査はまだ不十分で、原因や有病率、他の疾患との関連性などよくわかっていません。

餌の種類は、ボロの性状に大きな影響を与えます。

麦・トウモロコシ、それらの原料を含むペレットなどの濃厚飼料の多給は、便の形を悪化させることがあります。

特に、過剰な非構造性炭水化物(NSC)を避けることが大切と考えられています。

馬の代謝性症候群について|馬好きさんのライト獣医学 (may-the-horse-be-with-you.xyz)

まずは、栄養バランスも含めて給餌プログラムを再評価することが第一歩です。

腸内細菌叢の乱れ

健康な馬の大腸には腸内細菌叢があって、植物繊維の消化に大きく関わっています。

繊維発酵によって生じた揮発性脂肪酸(VFA)は、馬のエネルギーの70%もまかなうことがあります。

この腸内細菌叢には多数の細菌が含まれていますが、これが乱れることを『ディスバイオシス』といいます。

餌の変化、ストレス、抗生物質の使用などがその原因となる可能性があり、結果として腸管内アシドーシスや消化不良を起こしてしまいます。

 FFWSの馬において、腸内細菌叢に変化がなかったとする報告もあり、更なる研究が必要といえます。

Dysbiosis is not present in horses with fecal water syndrome when compared to controls in spring and autumn

Angelika Schoster et.al. JVIM. 2020

腸の炎症  

重度の大腸炎になったことのある馬が、治癒した後に発症することがあります。

口から摂取した水分の多くは大腸で吸収されます。腸管の炎症は、腸管からの水分吸収を低下させます。

大腸炎の主な原因としては、細菌・寄生虫の感染、穀物多給、NSAIDsの過剰投与、抗生物質、ストレス・輸送・刺激物や毒物接種などがあげられます。

牧草

牧草は水分を保持しやすいため、固形のボロが作られやすくなります。ですが、アルファルファや、サイレージなどは水分保持能力が低いのでFFWSを疑う馬にはあまり適していないかもしれません。

管理

歯に問題があって、咀嚼が困難になることも原因になります。

また、常にストレスを受けている馬は、腸の運動が亢進しすぎて、糞便に液体が混じる可能性が高くなります。

ストレスの原因には、放牧地での群れの変化、群れの中での順位の変化、給餌時の餌の取り合い、厩舎環境の変化、季節変化、放牧時間の減少などが主に上げられます。

その他

高齢、騙馬、ピントホースは、比較的にリスクが高いと報告されています

治療

原因が分かっていないため、適切な治療法についても科学的根拠が確立されていません。

環境を変える

群れを変える、餌を個別に与えるなど、ストレスを軽減してあげること。

群れの中での社会的ヒエラルキーの低い馬にFFWS発症が多いことが分かっています

餌を変える

バランスの取れた餌を与えているかどうか再評価することが大切です。栄養素計算ソフトもあります。

ただし、餌の内容を変更する際は2週間ほどかけてゆっくり変更する必要があります。

新しい餌の適切な消化に、腸内細菌叢の変化が対応するために必要な時間です。

乾草を自由採取させたり、チャフなどを与えたり、ペレットを与えたり、餌の内容を変更することで良くなる馬もいます。サイリウムハスクや塩を添加して改善することもあります。

サイリウムハスク : https://amzn.to/3NJhDTB

FMT:腸内細菌叢移植

腸内細菌叢移植は、健康な馬の糞便から得られた正常な腸内細菌叢を移植する方法です。

馬の大腸炎やクロストリジオイデス感染の際に治療の選択肢として行われることのある治療法です。

大きな効果のありそうな方法に見えますが、本当に効果があるかは証明されてはいません。

ある報告では、10頭のFFWの馬にFMTを行ったところ2週間後に便の性状に改善がみられました。

ですが、糞便中の腸内細菌構成に変化はありませんでした。

Free Faecal Water: Analysis of Horse Faecal Microbiota and the Impact of Faecal Microbial Transplantation on Symptom Severity

Louise Laustsen et.al. Animals 2021
ドナー馬の選定が一番大切です
できた液体を 経鼻カテーテルで投与します

整腸剤

腸管内に有益な細菌叢を形成するための製品です。プロバイオティクスはFMTと同じ目的ですが、プレバイオティクスは吸収できない繊維(デキストリン等)や細菌の成長を促すような製剤が含まれています。

まとめ

 心配かもしれませんが、ただちに積極的な治療が必要な重大な病気ではありません。

ただ、後肢にかかったボロ水が皮膚に炎症を起こしそうな場合は、肢の内側にワセリンや亜鉛化軟膏を塗ってあげるのも良いでしょう。

 気になった時は、飼養環境などからゆっくりと見直してみると同時に、かかりつけの獣医師に相談してみてください。

Mahalo