馬って、ヒトと同じように顎を縦に動かして物を噛みませんよね。
その動きにはちょっとした秘密があるんです。
ちょっとずれますが、前回の記事の続きで 乳歯のおはなしから。
歯の生え変わり
馬の歯にも乳歯と永久歯があります。
乳歯の本数も決まっていて、馬の場合上下ともに 3-0-3 です。(歯式については前回の記事へ)
上下左右合わせると 6 × 4 で 24本 になります。
切歯(せっし) 1~3
生まれたての仔馬は、上下左右に1本ずつの乳歯が生えています。
続いて4-6週齢で、その外側に1本ずつ。さらに6-9カ月齢でその外に1本ずつ生えそろいます。
永久歯は 乳歯の内側(舌側)に萌出します。
犬歯(けんし) 4
オスは通常4本の犬歯の乳歯をもっていますが1cm以下で、とても小さい歯です。
上顎も下顎も永久歯は 4-6歳で生え始めます。
臼歯(きゅうし)
狼歯(ろうし) = 第一前臼歯 5 (105/205/305/405)
主に上顎だけに生えますが、下顎に生えることもある小さな歯です。
第二前臼歯のすぐ前側に生えてくる歯で、長いものでは3cmくらいあることもあります。
通常は6~12カ月で萌出します。
報告によってまちまちですが、メスの24.4% オスの14.9%が狼歯を持っていると言われています。
これらの歯は、銜を付けた際に不快感を与えることがあるため、抜歯することができます。歯肉から出てないだけで、歯肉の中に埋没していた状態でも痛みを起こすことがあるので、銜を付けて嫌がる馬では要注意です。
急がないのであれば、2歳くらいで若干ぐらつくので抜歯には良いタイミングだと思われます。
前臼歯 6-8 (〇-〇- 6 / 7 / 8)
出生直後から前臼歯の乳歯の生えている馬もいますが、多くの馬は生後1週間以内には萌出します。
前臼歯はそれぞれ3本ずつあるので、 3 × 4= 12本 です。
永久歯は 前から 2.5 歳 ‐ 3歳 – 4歳 で生え変わります。
飼い桶の中にキャップと呼ばれる乳歯が落ちているのを見かけたことがありませんか?
あれは抜けてしまった乳歯です。
後臼歯 9-11
後臼歯は、一代性歯で 前側から1-2-3の順に 1歳 2歳 3.5歳で生えてきます
臼歯の化石と歯の形
歯は、化石として堆積後の変質作用を受けにくい性質を持っており、その中でも特に『臼歯』は、その形態が食性との関連性が高いため、古生物学的研究において重要な資料となります。
有蹄類動物の食性は 一般的に 草を食べる『草本食;グレイザー』、果実や木の葉・実を食べる『木本葉・果実食;ブラウザー』、どちらもたべる『中間食』の3つにわけられます。
キリンなどは代表的なブラウザーです。これらの動物の祖先の臼歯の化石から、当時の食性を推定します。
上の写真のように、馬の臼歯(永久歯)は 高歯冠歯(Hypsodont tooth) 長い歯 です。
臼歯の『高さ』を歯冠の『幅や前後の長さ』で割った値をHI(Hypsodonty index)といいます。
このHIが大きいほどグレイザー寄りの食性で、低いほどブラウザー寄りと言われています。
前臼歯または後臼歯は、口の中の奥にほうに位置しています。これらの歯は、食べ物が飲み込まれる前にすりつぶすのに役立ちます。頬の歯は、切歯よりも幅広い形になっています。
噛み方(咀嚼)について
ところで、噛む行為のことを 咀嚼(そしゃく) といいます。
ヒトと馬の咀嚼の違いわかりますか? 馬はヒトみたいに顎を縦に動かしません。
馬は顎を横に動かし、草や干し草、穀物などをすりつぶします。
おもしろい図でしょ? 上の右 B の図は下顎の動きを正面から見た時のながれをしめしています。
馬の咀嚼には 主に3つ(+1)のフェーズがあって
① Opening Stroke 1~4 下顎の下方・側方運動
② Closing Stroke 5~6 臼歯の初期咬合
③ Power Stroke 7~10 後方側方研磨運動
④ Recovery Stroke 10~1 に
これらの歯は、草や干し草などの飼料を1~1.5cmの長さに変えます。馬の糞に含まれる草や干し草が長い場合は、歯に問題があり、馬が適切に噛むことが困難になっている可能性があります。
馬の歯はすべて、1年に約4mm伸びます。咀嚼することで摩耗しますので、その長さは、馬が放牧されている土の種類や飼料の種類、馬自体の健康状態、習慣、遺伝によって異なります。
下顎が向かって左側に移動すると、上顎の臼歯にぶつかります。その時点では切歯(黒い枠)が咬合(合わさって)していますが、さらに最大限まで動くと、上顎と下顎切歯の間に隙間ができるような作りになっています。
このような馬の咀嚼の力。 Staszyk C らの報告によると、馬の最大咀嚼力は 175.8 Kg(1758N) なんだそうです。
最も噛む力が強いとされる ワニ。その噛む力は 540Kg 💦 ヒトは70Kg ぐらいだそうです。
また、この咀嚼の方向にも面白い研究があります。400頭の馬で調査した報告によると
163頭(41%) は 正面から見て 下あごが時計回り
131頭(33%) は 正面から見て 下あごが反時計回り
45頭(11%) は 正面から見て 下あごは両方に (残りは正確に記録できず)
馬にも噛み方の癖があるんですね。
さいごに 。。口の中の秘密な構造
ちなみに、馬の口の中の上顎の裏の構造を知っている人は少ないのでは? なかなか見ることができません。
上顎の裏側。 波状の構造があります。この波状の構造は後ろ(喉)方向へ15度傾いていて、馬が咀嚼するたびに少しずつ咀嚼したものが進むようにできているそうです。
麻酔をかけた馬で触ることができます。 プニプニして 猫の肉球みたいで気持ちいですよ。
Mahalo