馬は、獣医師がよく扱う動物種の中で、最も麻酔関連リスクが高い動物と言われています。2002年の世界中の62の診療所を対象とした41,824頭の大規模調査では、麻酔関連死亡率は1.9%でした(急患を含む)。
麻酔は、導入期・維持期・覚醒(起立)期に分けられます。吸入麻酔薬の性質の向上などもあり、麻酔維持中のトラブル(心停止や不整脈)は、数十年前から激減しています。ですが、現在においても変わることなく、最も危険なタイミングは覚醒起立のタイミングです。
全身麻酔されて横になった馬たちは、麻酔から覚めて立たなければなりません。その時に、ふらついてしまうと、最悪の場合は、骨折、手術した部位が開く、起立できない、などのトラブルが起きてしまいます。

現在は、前述の大規模調査の第4弾が終了し、発表を待っている段階ですが、かなり改善されているようです。
世界中の有名病院が名を連ねるなか、社台ホースクリニックも、この調査に参加させていただきました。 CEPEF4
ちなみに、2006年から2015年までの10年間で調査した社台ホースクリニックの麻酔関連死亡率は、0.18%でした。
覚醒時の事故を減らすために、たくさんの方法が考案されています。
起立時に全く介助を行わない診療所もありますが、『 Head & Tail Rope system』 という頭絡と尻尾にロープを結わえて、前後から牽引して支える方法が最も多い方法です。


(b) ⇒ (d)

引用:Complications in Equine Surgery より
著:Dr.Dean A. Hendricksonら

台ごと傾けて徐々に負重させる方法
Veterinary Surgery(36) より
著:COLETTE R. ELMAS ら
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プールの中から吊り上げて出す方法
Equine Anesthesia 2nd Edより 著者:John Hubbellら

Large Animal Sling を併用した 方法
社台ホースクリニックでは、 リスクの低い通常の症例に対しては、ヘッドアンドテール法に加え、横から人が直接支える方法をとっています。 覚醒用の部屋は、壁と床が柔らかいマットでおおわれています。
骨折整復術などのリスクの高い症例に対しては、吊り上げてサポートする方法を行っています。
それぞれの方法に、各々利点と欠点があります。
- There are no safe anesthetic agents 安全な麻酔薬はありません
- There are no safe anesthetic procedures 安全な麻酔方法はありません
- There are only safe anesthetists ただ安全な麻酔科医がいるだけです
Robert Smith の名言
麻酔関連死亡率を、可能な限り0に近づける。これが馬の麻酔医の永遠の課題です。