
- 2021年10月16日。朝7時30分。
関西で働く知人のA先生から、私(北海道)に電話がありました。
『軽度の疝痛で6日目の乗馬がいる』 とのこと。
8歳・サラブレッド・セン馬 ブラックライト号
経過を聞いて、便秘を疑いましたが念のためにエコー検査を行う提案をしました。
遠隔・疝痛馬の検査
AM 8:30
Zoom機能を用いて、A先生と一緒に 腹部超音波検査を行いました。
もうちょっと右~、 次はお腹の下の方~、 反対側もみましょ~、 十二指腸は??
1台の画面はエコー画像 2代目の画像はA先生の手元(エコーの当てている場所)を映しながら、検査を行います。
手術が必要な疾患であるかどうかを判断するためには、エコー検査が素晴らしい威力を発揮してくれます。

詳細な検査であれば、画面共有にもう少し工夫が必要かと思いましたが…
手術の必要性を判断するだけであれば、かなりの部分がカバーできそうです。
今回の検査では、明らかな異常所見を認めませんでした。
直腸検査。こればかりは遠隔検査できません。口頭での説明はなかなか難しい。。。
排便は少なめ。。。。 便秘かな? とは思いますが、経過・症状などだけでは、診断には至りません。
この段階で言えることは、
現段階で緊急的に手術が必要な状況ではないが、何かしらの腹部異常があるでしょう ということだけです。
便秘を疑い、その日は経腸補液と静脈点滴の指示をして。経過観察としました。
府大オペ作戦チーム??
日中は、前日までの同様に間歇的な弱い痛みがみられていましたが、全身状態の悪化はありませんでした。
21:30
始まりは、A先生と私の『もし今後手術になったら』のやり取りから。
そこに大阪府立大学の I先生、社台ホースクリニックで同僚の T先生、A先生の同僚の M先生がくわわり、LINEでの作戦会議(手術シュミレーション)が行われました。
大学にある資材の確認(ロープ・器具・薬品・ベッド・お湯・ライト・消毒・バリカン・消耗品・点滴・針・糸・・・・・ その他諸々)
搬送に要する時間や・手術可能時間・搬送所要時間・人員手配 など書ききれません。
手術になったら、夜中でも大阪府立大の施設をお借りできるとのお話を頂き、無事に閉幕です。
終わった時刻は23:00でした。
再検査、そして大阪へ
10月17日
夜中も症状は変わりませんでした。
朝に再び遠隔でのエコー検査を行いましたが、結果は同じで決め手に欠けます。
そこで、A先生と相談して 手術をするつもりで府立大に集合する ことにしました。
12:00
事前打ち合わせで、必要なものを確認しましたが、それでもすごい量に💦


13:00
ガーゼ入れた?腸鉗子は?大学にはあれあるかな。。。ギリギリまで色んな想定をしながら、いよいよ出発です。一番早く到着する便を選んで、新千歳空港へ!
この間、馬は大学に向けて搬送開始、現地の獣医師も何人も予定を合わせて府大に集合です🚙

新千歳空港から関西国際空港へは
ANA・JAL・Peachなど1日に13便(所要時間 2時間半程度)
関西国際空港から大阪府立大学りんくうキャンパスには車で約10分
空港までは御迎えに来ていただき、一路大学へ。
術前?検査
『 疝痛において、術前に原因を仮診断することはしばしば難しいもの。
それ故に、(原因よりも)手術が必要かどうかを判断することが非常に重要です。』
17:10
府大に到着。T先生は、持ってきた器具をひろげて、手術室の準備・麻酔の準備など。
手術中は、私(術者)もT先生(助手)も手が空かないので、周りの方に手伝ってもらわなければなりません。
慣れたスタッフがいないので、分かりやすいように物を並べるのも結構大変です💦
T先生大活躍❕
その間、私は、手術が必要かどうか判断するために検査を始めます。


直腸検査で結腸の大きな便秘が原因であろうことがわかりました。
結腸便秘は馬の疝痛で2番目に多い原因と言われています。内科的療法が功を奏することも多いのですが、時間が経過することで、腸管が破裂してしまうこともあります。
今回は、
・発症から長い時間を経過していること。
・内科治療に反応していないこと。
から 開腹手術の適応と判断しました。
開腹手術
18:00 手術開始
手術は全身麻酔をかけて、仰向けにして行います。


便秘した結腸を、おなかの外に出して、結腸を切開します。次に、切開したところから巨大な便秘塊を摘出するのですが、堅すぎて崩れませんので、ホースを腸管の中に差し込んで、腸の中で水を出して便秘塊を崩しながら洗い流します。
腸管内容には沢山の細菌が含まれています。当然、切開した腸管から腸内容を取り出すときは、細菌を術野にばらまかないように(汚染)注意が必要です。

便秘を解除して、腸管の位置を整えて、お腹の傷を縫い合わせれば手術終了です。
手術時間は 148分
手術が終わっても、最大の難関は麻酔からの覚醒です。以前にも紹介した通り、馬の全身麻酔の最も危険なタイミングが、覚醒(立ち上がる時)になります。
大阪府立大には、四方を柔らかいマットで囲まれた 覚醒室 があります。 手術終了から 67分。
無事に起立することができました。
覚醒室の構造など、実際に使ってみて改善点がたくさん見つかりましたので、I先生に改修をお願いしました。次回はもっと使いやすいものになるでしょう。

術後治療
手術は、治療のステップです。手術が終了した後の治療はとても大切です。私たちが、ずっと滞在することもできないので、今回は担当のA先生と、綿密な連絡を取りながらやってみました。
次回は、術後治療から、運動再開に至るまで、担当のA先生にお願いした内容などをご紹介いたします。
~こぼれ話~
23:30
急遽の出張でしたので、ホテルも取っていません💦新型コロナの影響で、どうにか部屋は確保できたものの、食事できる場所なんてありませんでした。ホテルの隣のコンビニでお酒を買って、ホテルのロビーでT先生と2人で、ひっそりと打ち上げしましたよ🐎
20年来の夢を叶えられ、友人の力にもなれ、人生で最高にうれしい打ち上げでした。

Mahalo