獣医療

副鼻腔のお話(後編)

 今回は、副鼻腔嚢胞に伴う副鼻腔炎になったお馬さんのお話。

ロイメルヴェイユ

6歳のセン馬でした。 もともととても元気な馬だったのですが、最近になってやたら従順。 

運動後に 右の鼻から 黄色い鼻水 。 

オーナー様は 『最近、馬房が臭い気がする。そして、臭い日は、おとなしい気がする』 と言われていました。

ロイ君の頭を ノックしてみると 右『ゴンゴン』 左『コンコン』 …蓄膿かな?? 

すぐにレントゲンを撮影しました。

画面左側が 馬の右 、 右側が 馬の左

やっぱりね。液体たまってますね。 副鼻腔炎です。抗生剤を飲ませてちょっと経過をみてみましょう。。

とお伝えしました。  

ただ、この時ちょっと気になる異常所見が レントゲンの端っこにうつっていました。

わかりますか?

抗生剤の投与を約2週間継続して、症状も無くなり一安心されていましたが、念のため確認のレントゲンを撮影したところ。。。

1度目のレントゲンよりも上の方を撮っています

まず、液体のラインはなくなって、ガス(黒)が増えたのはお分かりになると思います。

(液体のライン?の方は、前回の記事へ) 

 どうですか? 黄色く囲った部分に白い塊がみえませんか? 

  これは、副鼻腔嚢胞(Sinus Cyst)と呼ばれる病気で、今回はこれが副鼻腔炎を起こしていた原因だと思われました。 正面の画像(右)をみるとわかるように、もう少し大きくなると、鼻中隔(左右の鼻道を分ける真ん中の薄い壁:レントゲンの真ん中の白い線)を押してしまいそうです。 

そうなると、右の鼻道は塞がってしまい、呼吸が苦しくなる可能性もあります。

手術をして、この塊をとる必要があることがわかりました。

次に考えることは、どのタイミングで手術するか。 すぐに手術しても良いのですが、この時点で症状はありません。

どの程度の速さで嚢胞が大きくなっているのか、放置していたらまた蓄膿になるのか。放置していても、しばらく問題ないのであれば、寒くなって乗れない時期になってからでも…. など、考えることはありますが、

オーナー様のご希望は、 『 早めに手術をしてあげてください。』 

放置して、鼻中隔が変形する危険性を考えられ、早期の手術を決断してくださいました。

副鼻腔嚢胞 ; Paranasal Sinus Cysts

副鼻腔嚢胞(PSC)は、二次性副鼻腔炎の原因となります。PSCの多くは液体に満たされた袋(嚢;のう)で、徐々に大きくなり、最終的には副鼻腔内を占拠してしまします。

確定的な病因や病態は不明ですが、篩骨血腫との関連性も示唆されています。

あらゆる年齢でみられますが、離乳前の子馬でも報告がみられます。また、11-12歳の馬が最も多く罹患しているとの報告もあります。

症状は、鼻汁、顔面腫脹、鼻出血、異常呼吸音などです。時に、神経を圧迫することで、Head Shakingや失明といった症状を呈することもあります。

今回は、帯広畜産大学にてCT撮影を行いました。 必ずしも必要ではないかもしれませんが、術前検査として、可能であれば、とても有益な情報を得ることができます。

点線の部分の骨を大きく開けて 、副鼻腔の中にある嚢胞を摘出します。(図は左側ですがロイは右側)

 術後1週間の時のロイ君 ガーゼが入っているのは、術後洗浄用の穴(直径約1cm)です。 

ご覧のように、コ の字型に切開した痕がありますね。(皮内縫合したので糸はありません)

術後の合併症として術創感染などありますが、予後は比較的良好です。ですが、長期間経過した症例では、顔の骨、臼歯、神経への圧迫から、二次的な合併症を生じる可能性が高まると思われます。

その後

 手術後は、小さな穴に洗浄用の管を差し込んで、2週間ほど毎日洗いました。 

副鼻腔を構成する軟骨が大きく溶けており、鼻道との交通が大きくなっていました。

そのことによって、副鼻腔に水がたまらないので、洗浄が難しくなっていたため、ネブライザー(吸入治療)を併用しました。

術後1か月、レントゲンや内視鏡検査で異常がなくなったことを確認して、治療終了です。

すぐに騎乗運動を開始して、今ではもう元気いっぱいです。 

馬房も臭わなくなったし、 病気する前の ちょっとヤンチャなロイ君に戻ったということです。。。。

元気なのはいいのだけれど…もうちょっとおとなしくてもいいのよ WW

 傷。 わからないでしょ?? 

来年には、大会などでも皆様の前にでるかもしれませんね。 

副鼻腔嚢胞を克服した

ロイ君&オーナー様の 応援よろしくお願いします。

Mahalo