生き物なので、どうしても怪我をすることがあります。
気を付けるべき外傷、あるいは特別な縫合が必要な外傷について。
関節周囲の外傷
当歳のサラブレッド
集牧時に右飛節の外側に1cmの裂創を発見。
発熱・跛行はありませんでした。
ご自身の馬ならどうされますか?
獣医師にみせますか?
曲げた状態で真横からレントゲンを撮りました。
駐立のままではわかりませんでしたが、
肢を曲げることで、皮膚・皮下のポケットが動いて関節と交通したトンネルから関節内にガスが入ってレントゲンにうつっています。
曲げたり動かしたりしてレントゲンを撮ることは、とても役に立ちます。
こちらは1歳馬。放牧地で右の腕節の背側に小さな裂創がみられました。
こちらも、真横からのレントゲンで掌側(うしろがわ)にガスがうつっています。
これが外傷が関節内に交通している証拠となります。さらに、造影剤を投与すると橈側手根伸筋腱の腱鞘にも交通していたことが分かりました。
この2症例とも、すぐに適切な処置を施したので無事に治りましたが、関節交通性の外傷は初動がとても大切です。必ず獣医師にすぐ見せてください。
可動域の大きな裂創 その1 関節の不動化
大きな裂傷、かつ関節の近くで可動域が大きな場合、縫合はとても難しくなります。
1歳。 放牧地で左前膝の背側を怪我してきました。
運よく関節には交通していなかったものの、
この部位をただ縫合しただけでは肢を曲げた際にすぐはじけてしまいます。
このように肢を曲げないように、ギプスを巻いて管理する方法も1つです。
可動域の大きな裂創 その2 特別な縫合
傷の縫合方法にはたくさんの方法があります。
縫った傷が離開(はじけること)することは極力避けたいですが、縫合糸が切れる・皮膚が裂けるのどちらかが原因ではじけてしまいます。
可動域の大きな部位では、糸で皮膚が裂けてしまうことがよくあります。
そのために外科医は 減張縫合 と呼ばれる縫合部位にかかる張力を減らす縫合や、特別な縫い方で強度をましたりします。
このまま普通に縫合したのでは絶対に裂けてしまいます。
① 縦に大きく裂けた傷の両脇を複数個所 切開 (減張)
② チューブをかませて糸が刺入された部位の皮膚に過度な緊張が掛からないようにする(Rubber Stent)
手術時は、傷が腫れているので力いっぱい寄せたくなりますが我慢。あまりきつくよせると、チューブの下で皮膚が虚血性に壊死してしまいます。Stentはあくまでも補助。チューブをかませて垂直マットレス縫合。
その内側(傷側)で、数か所の水平マットレス縫合。
よくあるのは腫れが引いてきたときにチューブが落ちてしまうこと。なので、チューブの一番上(近位側)に糸を通して落ちないように工夫してあります。
術後は張り馬で管理してもらいました。
3週間後。3日前にチューブを抜糸して、全ての糸を抜糸しました。
縫えない傷
皮膚が壊死、あるいは欠損すると移植をしたり、二期癒合をさせることになります。
再度縫合しましたがやはり弾けました。毎日レーザーと、水道水による洗浄を続けた結果。2カ月後にはここまでよくなって、馬術大会にも出場できました。
日本の上水は、とても綺麗なので毎日念入りに洗って(ガーゼで表面を軽く拭って)いただけで、こんなに早く良くなります。頑張っていた学生さんよかったね。
現在では馬の皮膚移植の報告もあります。
さいごに
外傷は初動が大切です。傷の周りの毛を刈って、傷を綺麗にして、傷を評価することがとても大切です。
簡単に獣医師を呼べない場合は、傷を綺麗にして、写真を撮って獣医師に相談してみてください。
Mahalo