その他

馬の内視鏡検査

 競走馬の競りの際に『レポジトリー;Repository』という言葉を耳にします。競り前に、指定された関節のレントゲン検査画像、内視鏡検査動画などを提出し、購買者(あるいは委託された獣医師)がそれらをチェックして、購入を検討するというシステムです。

このシステムによって、馬の医療における内視鏡検査の件数は格段に増えたと思われます。

今回は、馬の内視鏡検査を中心にライトなお話。

正解は Overground Endoscopyでした。

内視鏡の歴史 1

 内視鏡は、大きく分けて2つあります。ひとつは『硬性鏡(こうせいきょう)』とよばれる、硬くて曲がらない筒状のもの。これらは 関節鏡や腹腔鏡などの際に用いられます。

もう一つは『軟性鏡(なんせいきょう)』とよばれるもので、柔らかく曲げることのできる内視鏡です。皆さんが病院などでよく目にする内視鏡は軟性鏡になります。

 馬の胃を観察する内視鏡 全長 3m

内視鏡の起源は古く、1805年にBozziniが管を通して生体内の観察を行ったのが始まりです。その後も開発が進みましたが、それらは『硬性鏡(こうせいきょう)』と呼ばれる全く曲がらない管でした。

1914年、Mayerらによる発表は衝撃。

嚥下反射の強い私には絶対無理無理💦

その後、1932年に『胃カメラの父』と呼ばれるドイツのSchindlerが、曲がっても観察できる『軟性鏡(なんせいきょう)』を発表します。

これによって、胃の内部が比較的簡単に観察できるようになりました。

内視鏡の歴史 2

今でも、『胃カメラ』という言葉を聞くことがあると思いますが、なぜカメラなのでしょう。それは、リアルタイムで観察することができなかった時代があるからです。

胃カメラは、その名の通り内視鏡の先端にカメラがついていて、写真を撮影(記録)ができる内視鏡です。

1950年、オリンパスが軟性の内視鏡の先端にレンズ・ライト・フィルムカセット・フィルムを装着させ、手元の操作でフラッシュをたき、ワイヤーでフィルム(白黒フィルム)を引っ張って巻き上げる胃カメラを作成しました。ですが、このカメラは“リアルタイム”ではありませんでした。

OLYMPUSのHPより

1960年、グラスファイバーの開発とともに、内視鏡開発も大きく進展します。曲がった状態でも光を伝えるガラスの特性を利用し、リアルタイムで軟性鏡をもちいて観察することが可能となりました。

リアルタイムでの観察には非常に意味があり、喉や胃の動的評価をすることが可能になりました。ちなみにこのファイバー内視鏡は、一人の検査者しか覗くことができませんでした。

Atlas of Equine Surgeryより

ビデオ内視鏡と呼ばれる固体撮像素子(CCD)をつけた内視鏡が無いころは、一人しか画像を見ることができなかったのです。

これは、飛節の関節鏡の挿絵。 衛生的にしたくても、顔が術野に近い‼

 。。。今やったら怒られるデ(笑) 💦

得られた画像をCCDをもちいてモニター上に表示することができるようになったものを『ビデオ内視鏡』といいます。病院で主流なのはこの内視鏡です。これによって、一人ではなく、複数の人が情報を共有することが可能となりました。

現在でも(特に海外の馬医療現場では)、ファイバー内視鏡をもちいて診療をされている先生も多くいらっしゃるようです。それは、ビデオ内視鏡よりも安価で、小さく、かつ携帯性に優れて使いやすいためです。

Equine Endoscopyより

   Aの先端から覗いて観察する

ビデオ内視鏡

現在では、光源にLEDを使用し、データをパソコンに送って観察と記録が可能なものもあり、フィールドでも画質の良い内視鏡画像を記録することが可能な製品もあります。

Advanced Monitors の HP より

馬特有の内視鏡

馬には、運動能力に影響を与える喉の病気が沢山あることが知られています。

喉の内視鏡検査は、安静時(駐立)に行いますが、運動時に‘狭窄音(きょうさくおん)’がなって、苦しそうな原因を正確に確かめるには、運動中の動きを観察することが必要です。

そのため、馬用のトレッドミルを用いて内視鏡検査を行っていた時代もありました。安定したよい画像を撮るためには、意外とコツがいるのですが、トレッドミルとはいえギャロップする馬の前に立って内視鏡をするのは、いつもドキドキしていました。

2008年には、内視鏡を装着したまま運動することのできる内視鏡が開発されます。これによって、トレッドミルという特別な装置が必要なく検査できるようになりました。

オーバーグランド内視鏡と呼ばれる装置
運動時の内視鏡動画

↓運動時内視鏡(スローあり)

喉の病気の診断において、トレッドミルとオーバーグラウンド内視鏡を比較した研究があります。その研究によると、オーバーグランド内視鏡検査では、トレッドミルに比較してDDSPの発生率が低下する傾向があると報告されています。 臨床症状を鑑みて検査結果を解釈する必要があります。

E・H・J

日本の馬業界においてよく用いられる 『のどなり』 という言葉は口語です。明確な定義はわかりませんが、呼吸時に何らかの異常な音が鳴ることをいう方が多いように感じます。

それらの音は、『ヒューヒュー』だったり『ゴロゴロ』だったり、『ブルブル』だったり『ゼーゼー』と言われたりします。一般的には『ヒューヒュー』を指すことが多いと思います。

ちなみに海外では、喉なりを『whistling』『roaring』などと表現します。

喉の病気はたくさんありますので、今後少しずつ更新しようと思います。

おまけ

レポジトリー / Repository

Chambers Dictionaryによると、Repositoryとは

①物を保管することができる場所

②展示のための物が保管されている場所 / 博物館

③倉庫

④情報や知識の貯蔵庫として考えられている人あるいは何か

⑤秘密を打ち明けることのできる信頼できる人

となっています。 (レポジトリには秘密にしたい病変が潜んでいることもwww)

Mahalo