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全身麻酔のリスク軽減に向けた取り組み 

馬の麻酔には、その大きさに伴ういくつかの問題があることを以前に紹介しました。

前回は そのうちの 呼吸 について説明しました。↓↓

今回は、別の問題。。

サタデーナイト症候群 、 

ハネムーン症候群

 って聞いたことありますか?

どちらも人間で用いられる同じ病気を指す言葉で、 ’橈骨神経麻痺’ という病気です。

人の 橈骨(とうこつ)は、肘と手首の間の骨です。 

橈骨神経は、その近くを通る神経で、指を伸ばしたりする役割があります。

この撓骨神経が何らかの理由で損傷や圧迫されておこるのが撓骨神経麻痺ですが、腕枕で生じることもあるので、このように呼ばれます。 経験のある方もいるのでは?

神経の圧迫は、自分の体重でも起こり得ます。変な体勢で寝てしまって、腕がしびれたことはありませんか?

当然、体重の重い馬は全身麻酔で不自然な負荷が神経にかかりやすく、神経麻痺を起こすリスクが高いと言えます。

馬の全身麻酔にまつわる 3大リスク は

① 覚醒時のトラブル ; 骨折など

② 神経麻痺 ; 神経の支配領域 が動かなくなったり 感覚がなくなったりします。 

支配領域の筋肉も 時間の経過とともに萎縮します。

③ ミオパチー  

  圧迫などによる 筋肉の障害 

傷害を受けた筋肉がうまく働かなくなり、筋肉が萎縮します。

 ② と ③ は 全身麻酔後発症する際の機序が似通っているため、予防法もほぼ同じです。

3つの ’ P ‘ が大切です。

Pressure : 血圧  

 全身麻酔では血圧が下がりやすくなります。体の中の重要な臓器(腎臓・脳・肝臓など)に十分量の血液を供給するために、平均血圧を一定以上に保たなければなりません。 それは、ヒトでも犬でも同じなのですが、馬の場合は、筋肉量も多いので筋肉への血液供給も大切です。 

 犬では、麻酔中の血圧をあげるために ドパミン と呼ばれる薬が良く使われます。

 この薬は、低用量では心臓の収縮力を増大させてくれる作用(β受容体作用)がありますが、高容量になると末梢血管の収縮作用(α受容体作用)があります。

末梢血管、つまり筋肉に分布する血管が収縮して血液の供給量が減ってしまっては、馬は困ります。

なぜなら、下になった筋肉が(おもーい)自重で圧迫された状態ですから、ミオパチーのリスクが高まってしまいます。なので 馬では ドブタミン と呼ばれる薬が主に使われます。

 この薬は、β受容体の選択性が高いため 心臓の収縮力増大作用 を示します。また、α受容体作用がないので、末梢血管を収縮させることもなく、好んで用いられています。

Position : 体位

  横、仰向け、(時には)うつ伏せ、などの体位で手術をします。 その際に、神経や筋肉が圧迫されることのないように、常に気を付けています。覚醒の際も、下になった前肢は必ず前に引っ張り出します。

Pad : パッド(クッション)など  

  局所的に強い圧迫力がかからないように、柔らかいマットを沢山つかっています。 いろんな形がありますが、それぞれに役割があり、診療所によっても様々です。

結腸捻転でおなかがパンパンですが肩あてのマットに注目

10年以上前の写真ですが 頭から首が痛まないように柔らかいマット(今もほぼ同じ)を使用しています

野外などで麻酔をする際(注射麻酔など)は、短時間のことが多いですからそれほど問題にはなりません。

馬に全身麻酔をかける獣医師たちは、日々このようなことに気を配って、麻酔のリスク軽減をはかっているのです。

~追記~ 

15年以上、SHCでは神経麻痺・ミオパチーの発生はありません。

Mahalo