『馬の肢が腫れてます』
馬の獣医師をしていて一番よく聞くかもしれない症状です。
馬の肢が腫れることにはたくさんの原因があり、対処方法・治療や予後も大きく異なります。
今回は、馬の肢が腫れた時に、考えるべきことを簡単に紹介します。
肢が腫れる原因
腫れる原因と種類を明確に分けることがちょっと難しいのですが…
- 浮腫(水腫)
- フレグモーネ(蜂窩織炎)
- リンパ管炎
- 支持組織(腱や靭帯)の損傷
- 腱鞘液の増量(Wind puff/Windgall)
- 関節液の増量(関節内損傷・関節症など)
- 変形性関節症(関節全体の腫脹)
- 蹄の感染
- その他(腫瘍など。。。)
例えば①浮腫(水腫)とは、血管や組織から水分ば漏れて皮膚の下や腱などの周りに水分が溜まることを意味します。
肢は体の下にあるため重力がかかりやすく、さらに心臓から遠いために吸収されにくい、などの結果としてこのようなことが起きやすいと言えます。
【タチバレ;英;Stocking up,Stagnation edema】などは、この浮腫を引き起こす原因の一つです。
舎飼いしている馬によくみられる症状で、指で押すと、指の痕(指圧痕)が残ります。運動不足によって血液やリンパ液の流れの悪くなることで肢が腫れます。見た目の腫れは心配かもしれませんが、深刻な問題ではないことが多く、運動することで血流やリンパ管の流れが改善して、腫れがひきます。
【フレグモーネ(蜂巣炎);英;Cellulitis】や【リンパ管炎;英;Lymphangitis】は深刻な問題です。
どちらも細菌感染によるもので、フレグモーネは、皮膚とその直下の脂肪含む軟部組織の炎症です。リンパ管炎は、特に後肢のリンパ管周囲にみられることが多く、発症した馬は痛くて歩けないほど強い炎症を起こしてしまいます。
どちらも早急な治療が必要な状態です。
肢が腫れた時に気にするべき他の症状
肢が腫れた時、急いで対処した方が良いこともあれば、そうでないことも多いでしょう。肢が腫れたこと以外にどんな症状に気を付けて判断すればよいのでしょうか。
- 腫れている肢は何本?前肢?後肢?
- 跛行しているかどうか
- 外傷(切り傷・擦り傷・打撲)の痕がないか
- 局所(腫れた部分)に熱感はないか
- 触って痛がるかどうか
- どの程度・どのくらいの範囲が腫れているか
- 体温は? 発熱していないかどうか
- 屈曲痛はあるか
- 指動脈の拍動亢進はないか
複数の肢が同時に腫れた場合は、全身性の問題であることが多いでしょう。1本の肢が腫れているのであれば、その肢に問題がある可能性が高いといえます。
明らかな切り傷があればわかりやすいですが、毛の下に隠れて見ただけでは分からない小さな怪我があることは珍しくありません。やさしく触って、毛の下に『ポツッ』と違和感を感じたら、小さな怪我かもしれません。バリカンで毛を刈ってチェックしましょう。
原因によっては、特徴的な腫れ方をすることがあります。関節・腱鞘・靭帯・腱・滑液嚢・リンパ管。。。正しい肢の触り方で、どこが腫れているのかわかるようになりましょう。
蹄の問題から肢が腫れることもよくあります。その場合は、指動脈の拍動が亢進(強くなる)することが多いと言えます。
肢が腫れた時の触り方(関節)
『肢が腫れている』といっても、肢のどこが腫れているかわからないと、原因や状態を特定することができません。
腫れた原因の見極め方
先に記載したチェック項目や、腫れ方、腫れている部位、痛みの強さなどから判断します。
獣医師はそれに加えて、 血液検査・関節(腱鞘)液の検査・レントゲン検査、エコー検査などを行うことで診断をします。
獣医師の診察が必要でない程度の軽い症状のときは 水冷をしたり、 圧迫バンテージをして腫れをひかせます。
浅くきれいな傷であれば、水できれいに洗って消毒をし、圧迫バンテージすればよいだけのこともあります。
傷によっては縫合が必要なこともありますが、関節の近くの傷は、特に注意が必要です。傷が関節につながっていて、そこから関節内に細菌感染が広がることがあるからです。関節近くの傷は、獣医師にみてもらいましょう。
感染があるときも、抗菌剤の投与が必要です。治療開始の遅れは、治癒の遅れと予後の悪化を招く可能性がありますので、早めに獣医師に相談してください。
今後、少しずつ肢の腫れる疾患について解説していく予定です。
Mahalo