FLASH(Fast Localized Abdominal Sonography of Horses)
疝痛の『緊急性・外科的治療の必要性』の判断を、迅速かつ簡便に行うために開発された馬の腹部エコー検査方法です。 今回は後編です。
4:Left Middle Third Window
左の腹部の中くらいの高さ全体 ・ 横隔膜ラインから尾側方向へ水平に
- 正常な馬では頭側(横隔膜側)から、肝臓→胃→脾臓+結腸 が描出される
- 腎脾エントラップメント(NSE)のばあい、脾臓の背側ラインが正常よりもかなり腹側へ位置する。
- NSEでもまれに低い位置で左腎が描出できることがある。
5:Duodenal Window
右腎の腹側、あるいは肝臓右葉の内側で観察できます。
- 正常ではコラプスしているか、動いています
- 胃カテ処置などの後にはガスのために、体壁側の腸壁と内張するガスのみみえます
- 拡張がみられた場合は、即、胃の減圧(胃内容逆流試験)を実施してください。
- 高齢の馬では、肝臓の右葉が萎縮することが多いので、その場合は右腎の腹側をみます
馬の十二指腸は、胃の右背方に出たあと、肝臓の右葉の内側を通過して、右腎および盲腸底に達します。十二指腸の拡張は、小腸の機械的or機能的閉塞の症例でみられます。壁の肥厚は、十二指腸炎あるいはIBDでみられます。十二指腸の拡張自体が、急性腹症の特定の原因を示すことはあまりありません。
6:Right Middle Third Window
右の腹部の中くらいの高さ全体
横隔膜ラインから尾側方向へ水平に
- 腸管とともに走行して描出される血管は、外側盲腸ヒモの血管のみ
- それ以外の血管は、結腸の右背側変位あるいは結腸捻転をあらわしているかもしれない
- 結腸捻転では、結腸壁が肥厚する
- 拡張・肥厚した小腸が肝臓の右葉と結腸の間に見えた場合は、網嚢孔エントラップメントが疑われる
外側盲腸ヒモの血管は、結腸動脈よりも明らかに細く、判別可能です。
7:Thoracic Window
左右両側
尾側から頭側方向へ、1つ1つの肋間を背側→腹側方向へスライドさせながら、胸腔(ガス)と腹腔の境目を順番に確認する
- 胸腔内に小腸・結腸・肝臓が描出される ☞ 横隔膜ヘルニア
横隔膜ヘルニアの場合、その多くは胸腔内に胸水の貯留を認めます。肺胸膜炎でも、疝痛様の症状をみせることがあります。その場合は、胸水の貯留や、肺の実質のコンソリデーション(硬化像)がみえるでしょう。
さいごに
FLASHは、急性腹症の馬に対して、迅速かつ高い確率で異常をとらえるための検査方法です。ですから、実質臓器を含めた、腹部の詳細な検査と比べて異常を発見する確率は下がります。
(言い方を変えると、最低限でも検査しておくべき部位です)
馬の診療に不慣れな獣医師さんや、これから腹部超音波を始める先生にとっては、学習しやすい検査法となります。身体検査、その他の検査と合わせて、大事な検査の一つととらえて是非やってみてください。