
外科的治療の対象となる小腸疾患にはたくさんの病態があります。
外科的治療の対象となる小腸疾患の多くは絞扼性疾患ですが、非絞扼性疾患も手術の対象となり得ます。

でもこれは、サラブレッドの成馬の話。輓馬(ばんば)の小腸は。。。。
🐍アナコンダ🐍のごとく、直径8cmくらいあって大変なんです。
腹部(エコー)検査の限界
大腸は、その多くが体表に面しており、エコー検査で大腸壁の変化をとらえることは難しくありません。
一方で、小腸は前腸間膜に吊られている上に、イレウスによるループを形成しない限り体表から多数みえることはありません。
たった4カ月齢の馬でも腹囲の直径は40cm以上あります。
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直腸検査ができるのは、だいたい350㎏以上の馬。直腸検査をしても腹部の約3割しか触れていません。体表からのエコー検査も、おなかの中心部までは届きません。
成馬になるとおなかも大きくなり、皮下脂肪がエコーを減衰させ、腸管ガスがエコーを反射させるので、深い部分はさらに描出できなくなります。
全体像を把握するため、仔馬では腹部レントゲンを撮影することで、二ボー像や小腸のイレウス像を確認できることもあります。
小腸疾患に対するエコー検査の考え方
エコー検査で、これらの一つ一つの疾患を分けて診断することは難しいことが多いでしょう。
急性腹症時のエコー検査の目的は、治療方針の作成にあります。
外科的治療が必要な状態かどうか、内科的治療で経過を観察するかの判断をすることです。
イレウスのある馬の小腸は、腹腔尾側で描出されることが多い傾向にあります。ですが、病態によって腹部のどの部位でもみえる可能性があるので、全体をスキャンすることが大切です。
小腸の拡張や肥厚は、どの部位で描出できても異常ですが、描出できた部位によって病態を推測できることもあります。
例えば、サク癖をする馬において、馬の右の前の方で小腸が描出された場合は、網嚢孔ヘルニアの可能性が高いかもしれません。

(※網嚢孔ヘルニアであった繁殖雌馬のエコー画像)
横隔膜ヘルニアについては次回以降に書きますが、胸腔内に拡張あるいは肥厚した小腸が描出されれば、診断が可能となります。
ですが、腹腔内のどこかで拡張した小腸や肥厚した小腸壁が観察されたとしても、小腸イレウスの原因(疝痛の原因)を特定したことにはなりません。
画像を描出したのちに、その画像をどう捉えて、どうアプローチするかが大切になります。
小腸の拡張と壁の肥厚
機械的イレウスの場合(捻転や重積など)、小腸の拡張像が多数描出されることが多いでしょう。成馬でのエコー上の小腸拡張は、直径5cm以上で丸いものを指します。一定時間のイレウスが生じると、腸管内の内容が沈殿して消化管内容が液体と固体に分離されたようにみえることもあります。
機能的イレウス(と思われる)の場合でも、小腸の拡張像がみられることはありますが、その本数はそれほど多くないことが一般的で、拡張した小腸を観察していると、ゆっくり動く様子を観察できることもあります。
機能的イレウスでは、基本的に壁の肥厚がみられることはありません。

手術対象となるような非絞扼性あるいは絞扼性の場合、小腸壁の肥厚がみられることもあります。ただしこれは必要条件ではありません。拡張像だけ描出されることもしばしばあります。
左の頭側(胃と脾臓の間)には、空腸が描出されやすいでしょう。回腸壁は空腸よりも壁が厚い構造をしていますが、超音波ではこれらを明確に見分けることはできません。
一般に小腸壁は3㎜以上の厚みを認めた際に肥厚していると判断します。ですが、壁の肥厚が、すべて絞扼による変化とは限りません。
リンパ腫、腹膜炎、肉芽腫性腸炎、IBDなどでも小腸壁は肥厚します。
絞扼性のイレウスが生じている場合は、これらの病態の時よりも疼痛が激しくなります。

あくまでも超音波検査は、診断の一助なので、可能であれば直腸検査などで超音波でみえない範囲を検査することも有益となることがあるでしょう。
加えて、外科的症例かどうかの判断が難しい場合に一番大切なことは、時間の経過による変化を捉えることです。
疼痛のコントロールがある程度可能であり、全身状態が悪くないことが条件ですが、90分~2時間間隔で腹部超音波検査を行い、小腸ループの本数増加や、壁の肥厚などの悪化を示す画像が得られた場合は、遅滞なく手術に踏み切ります。

重積は、ターゲットサインと呼ばれる特徴的な所見を描出した際に、診断が可能ですが、重積に伴う小腸の拡張のみが描出できることもあります。

若齢の当歳馬では回虫による機械的閉塞を認めることがあります。回虫は、エコー画像上で‘ダブルライン’と呼ばれる白い二重線として描出されます。

最後に
まれに手術適応だと判断しても、手術を希望されなかったために(経済的などの理由で)内科的に治療をして、良くなることもあります。
ですが、この体験をもって『なんだ。小腸の拡張像が沢山あっても手術しなくて助かるんだな』と思ったら大間違いです。絞扼性の病変は、時間の経過とともに明らかに手術の予後を悪化させ、救命率を低下させます。開腹した際に、小腸全域が真っ黒(壊死している)であれば、救命することもできません。
診断と治療はチキンレースではありません。
根拠のない理由(勘・少ない経験)で経過観察することは大間違いです。
手術すべきと判断できる条件の馬を搬送し、最終的に手術前の検査で良くなっていればそれはそれで良いのです。
そんなこと誰にも判断できません。手術の可能性が高かったのであれば、搬送したことは正しい判断だったと胸を張りましょう。
Mahalo