競走馬がレース途中で、ズルズルと後退するシーンはいつ見ても気持ちの良いものではありません。心房細動は、競走馬にみられる最も一般的な不整脈で、運動能力の減退を招きます。
安静時に心房細動が認められる馬は、運動中に心室細動を発症しやすくなります。心室細動は、突然死につながる重大な疾患であり、運動させることはとても危険です。

脱線しますが、馬で最も一般的な不整脈は『2度房室ブロック』と呼ばれる不整脈です。
競走馬の17~25%にみられます。
症状がみられることは殆どなく、動物種としては正常と考えられていますが、頻度が多い症例や症状を有する馬は予後が悪いとされています。
聴診すると 『ドッ・クン』『ドッ・クン』『ドッ・・・』『ドッ・クン』 と『クン』 が抜けたりします

病態
洞房結節から出されるはずの一定リズムの電気信号が、別の部位から無秩序に発生し、心拍が乱れる疾患です。
馬はもともと迷走神経が優位な動物なため、電気生理学的不均一性を生じやすいことや、心房がとても大きいことなどが発症しやすい要因と考えられています。
他の病気から心臓に負担がかかり、二次的に発生することもあります。近年では、運動誘発性肺出血との関連性も示唆されています。
症状
レース中の突然な失速、突然な運動能力低下などの症状がみられます。強い運動をしなければ、普段の生活においてほとんど症状のないこともあります。(偶然みつかることもあります)
診断
聴診では‘Irregularly Irregular Rhythm;不規則な不規則性’と表現される「ばらばらなリズム」です。音の大きさ、リズムがバラバラになります。
心電図では、3つの特徴を確認することが大切です。
①P波の消失
②f波と呼ばれる特徴的な波形(洞房結節以外で発生した無秩序な興奮)
③不規則なR-R間隔


治療
多くの馬は数時間で自然に治るため、発症後24~48時間は治療しません。48時間以上持続した場合は、すみやかに治療を行うことが推奨されています。
細動を正常なリズムに戻す治療を除細動といいます。
除細動の前には、治療の適応であるか判断するために心エコー検査をおこないます。二次的に発生したAFの場合、治癒率が低く、再発率も高いために治療対象とならないこともあります。
除細動には、薬物的除細動と電気的除細動があります。薬物的除細動は、抗不整脈薬(硫酸キニジン)を2時間おきに経鼻カテーテルから投与する方法です。キニジンは不整脈の治療薬ですが、安全域が狭く不整脈誘発作用もあります。そのため、必ず心電図をモニターしながら治療を行います。
キニジンは、妊娠馬への安全性が確認されていませんので、慎重投与が必要です。また、母乳に移行するため、授乳中の治療はできません。
電気的除細動は、全身麻酔下で2本の長いカテーテルを心臓の奥まで挿入して除細動を行う方法です。海外で行われていますが、日本では報告がありません。

予後
治癒しても、15~20%の馬が再発します。発症から治療までの期間が長いほど治癒率は低下し、再発率が高まります。除細動後は1週間の休養の後、1ヵ月かけて徐々に運動レベルを戻します。
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Mahalo