前回の記事で、痛みには種類があることがわかりました。
今回は、侵害受容性疼痛に対して一番よくつかわれる NSAIDs について
侵害受容性疼痛の疼痛コントロール
馬の『痛み止め』としてもっとも有名な 『バナミン(薬品名:フルニキシンメグルミン)』 はNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる薬の一つです。
ヒトの市販薬 ロキソニンS、バファリン、ナロンエースなどの仲間です。
これらの薬は炎症を引き起こす プロスタグランジン の生成に関わる シクロオキシゲナーゼ という酵素の働きを阻害する薬です。
同じ種類の薬ですが、動物によって効果の強さが大きく変わることがあります。
例えば、ネコは薬を代謝(体から排出するために構造を変化させる作用)する肝臓のグルクロン酸抱合という能力が低いため、ヒトの薬を与えると危険なことが多くあります。
NSAIDsに近い カロナール(薬品名:アセトアミノフェン)なども、犬で肝障害を起こすことがわかっています。
体重計算で、馬に人と同じ薬を与えるのは危険ですのでやめましょう。
世界中の馬獣医師のNSAIDsの使用
馬に使われるNSAIDsにはいくつか種類がありますが、国によって選ばれる薬に違いがあります
左から イギリス ・ アメリカ ・ カナダ における、疝痛時と整形外科疾患時に使用する痛み止めについて調査した報告です。
疝痛ではどの国でも フルニキシン(バナミン)が最もよく使われています。
整形外科疾患では フェニルブタゾン(ビュート)が最もよく用いられています。
これは、日本もほぼ同じ状況です。
整形外科疾患では、投与期間が長期に及ぶ場合が多くあります。バナミンやフェニルブタゾンの長期投与は、胃潰瘍などの問題を起こすことがわかっていますので、それ以外の選択肢が大切になります。
この調査では、イギリスでは『スキシブソン』、
アメリカでは『フィロコキシブ』と『ケトプロフェン』、
カナダでは『フィロコキシブ』が良く使われているようです。
この表にはありませんが、オーストラリアやニュージーランドでは『メロキシカム』がよく使われます。
国によって大きく異なりますが、国内で承認や販売されている薬が違うことが影響しています。
『スキシブソン』は、国内で昭和56年に発生したダニロン事件として知られている薬品です。
研究者たちは、ダニロンの発がん性などの問題を報告していましたが、当時の製薬会社は危険性に関する報告をせずに厚生省に新薬申請し、承認され販売にいたりました。北野静雄研究員が発足した労働組合は、会社に販売中止と隠ぺいデータの公開を要求し、販売中止・回収となりました。しかし、内部告発を支持した労働組合員に対する会社からの弾圧は激しく、大きな社会問題となりました。
馬に長期使用するためのNSAIDs
NSAIDsは、シクロオキシゲナーゼ という酵素の働きを阻害する薬ですが、シクロオキシゲナーゼには2つの種類があり、COX-1 と COX-2 (コックス1or2)と呼ばれます。
主に炎症に関わるのは COX-2 です。一方でCOX-1 は、消化管粘膜の血流維持などの働きを持っています。
(厳密にはCOX-2にも、消化管を守る働きがわずかにあるのですが..)
バナミンやビュートなどの、よく使われてきた古典的な NSAIDsは COX-1 と COX-2 のどちらも阻害してしまうため、
長期使用をすると 胃潰瘍や右背側結腸炎 を引き起こします。
馬の胃潰瘍について|馬好きさんのライト獣医学 (may-the-horse-be-with-you.xyz)
そこで、COX-2だけ阻害する COX-2選択性阻害薬 が開発されました。
数字が大きければ大きいほど、COX-2 選択性が高い薬ということになります。
フィロコキシブ・メロキシキカム・カルプロフェンが長期投与で好まれるのは、このような理由があります。
ちょっと長くなったので、今回はここまで。
次回は、実際に使えるお薬について。
Mahalo