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馬の疼痛管理について(3)

  馬の疼痛管理シリーズ第三弾。今回は実際に使用する薬について。日本で使える鎮痛薬について。

 疝痛などと違って、関節症や蹄葉炎などの整形外科疾患では比較的長期の疼痛管理が必要になることがあります。長期間使える&経口の鎮痛剤について紹介します。

そもそも痛みとはなんぞや?の方は こちら (第一回)

世界中で一番使われる鎮痛薬NSAIDsについては こちら (第二回)

バナミン・ビュート 以外のNSAIDs

メロキシカム

 オーストラリアやニュージーランドで、整形外科疾患に対して一番使われている経口の鎮痛薬です。

 COX-2 選択性の高い薬で、COX-2優先的阻害薬と呼ばれます。

比較的安全に長期投与が可能です。馬用に認可されたメロキシカムが日本でも購入可能です。

推奨用量は、 0.6mg/kg 1日1回 です。

空腹・給餌後に関わらず、吸収率が高いため、投与のタイミングを選ばないで良いことは使い勝手が良い点です。

鎮痛や抗炎症の効果の評価は様々ですが、海外では0.6mg/kg sid.では効果が少ないと一般的には思われているようです。

一方で、

Oral Administration of Meloxicam Suppresses Low-Dose Endotoxin Challenge-Induced Pain in Thoroughbred Horses

                   ShuntaroUrayama et.al.  J Equine Vet Sci. 2019 Jun:77:139-143.

2019年のJRAからの報告。

•リポ多糖(グラム陰性菌の外膜に存在する多糖。エンドトキシンとも呼ばれ、体内で炎症を起こす物質)で全身性の炎症を誘発させた実験。

•投与後に一定間隔で、炎症性スコアとなる因子を調査し、メロキシカム投与馬の疼痛スコアが、優位に低かった。

•体温・心拍・呼吸数・蹄温度・コルチゾール、血漿中腫瘍壊死因子、白血球数には有意差がなかった。

フィロコキシブ

前回の記事で紹介した、COX-2高選択的阻害薬です。

推奨用量は0.1mg/kg 1日1回 です。 馬用の製品も海外で販売されているのですが、残念ながら日本では購入することができません。

こちらは日本で購入できる 犬用のフィロコキシブ。

1錠 57mg と書いてあります。。。 ん??

ということは、570kgの馬に1錠与えれば、 0.1mg/kg なんです。

1日1回。飼い葉に1錠与えるだけで良いなんてすばらしい!

第1回で、動物種によってNSAIDsの用量が大きく異なると書いた理由はここにあります。

 ただ、この錠剤を馬に投与した際の吸収率や効果についての報告はありません。(犬用の認可なので。)

あくまでも、担当の獣医さんの相談してみてください。(個人的に効果はかなりあると感じていますが…)

長期投与しても副作用が非常にでにくいお薬です。

Disposition of firocoxib in equine plasma after an oral loading dose and a multiple dose regimen

S Cox  et.al. Vet J. 2013 Nov;198(2):382-5.

• この研究から、血中濃度を素早く安定レベルに上げて効果を発揮させるために、初回投与の際にだけローディングドーズ(0.3mg/kg)で与えるのが良いかと思います。

競馬施行規約では、馬の福祉や事故防止のために、競走時に薬物の影響下にないことを求める『規制薬物』が指定されています。フィロコキシブはその中の1つであり、投与後30日の出走制限が求められていますので、競走馬に使用する際は、注意が必要です。 競技馬については調査中。。

メロキシカムもフィロコキシブも長期投与が安全な薬ではありますが、他のNSAIDsと併用したり、脱水している状態で与えたり、高用量を長期間投与することは、胃腸障害や腎障害を招くことがあります。

次回は、 アセトアミノフェン と ガバペンチン について

いよいよ神経障害性疼痛につかえる薬がでてきます。お楽しみに

Mahalo