いよいよ寒い時期になってきました。馬が寒い環境に強いことはよく知られていますが、夏と同じ管理で良いのでしょうか?
夏には夏の、冬には冬の管理の注意点があります。今回は冬季の馬の管理について
馬は本当に寒さに強いのか?
人や馬は、気温や水温など周囲の温度に左右されることなく、自分の体温を一定に保つことができる動物です。近年では、動物の体温調整に多様な因子が関与していることが分かってきたため使われなくなってきましたが、以前はこのような動物を恒温(こうおん)動物と呼んでいました。
一方で、爬虫類や魚類、昆虫など、外部の温度によって体温が変化する動物は、変温(へんおん)動物と呼んでいました。
周囲の温度に対応できる恒温動物でも、対応できる温度には限界があります。特に平常時と変わらずに、体温調整が可能な気温を 臨界温度 と言います。
わかりやすくすると、『普通に過ごせる寒さの限界』が、下限臨界温度です。
寒い環境では、体温を保つためにより多くのエネルギーを必要とします。
冬毛の生えている馬 : -7.7℃
冬毛の生えていない馬 : 5.0℃
下限臨界温度に影響を与えること
下限臨界温度は、様々な要因で変化します。
ちいさな動物は、おおきな動物に比べて体重に対する体表面積が大きくなります。
そして、体表面積が大きいほど、体温が奪われやすくなってしまいます。
特に大切なのは、仔馬や成長期の若い馬。
本来は成長(増体)するために使われるはずのエネルギーが体温維持に使われてしまうので、成長が遅くなってしまう可能性があります。
体温維持のためにブラッシングすることも大切です。
放牧から帰ってきて、泥で汚れて毛がガビガビになった馬を見たことがある方もいるでしょう。
運動後に汗で毛が固まっていることもあります。
被毛には、セーターのように空気を閉じこめて温める働きがあります。
その温かな空気の層で、からだの表面を外界から断熱しています。
なので、被毛が濡れたまま、または汚れて固まったままの状態で放置すると、空気の層がつくれないので馬は寒い思いをしてしまいます。
(濡れたセーターを着て寒いところにいることを想像してください)
そのためにも、1日に1回はしっかりとブラッシングして、ふわふわの毛布(被毛)にしてあげることが大切です。
冬毛
繁殖雌馬の春の発情を早く始めるために、ライトコントロールが効果的なことは良く知られています。
これには、光刺激に反応するメラトニンというホルモンがかかわっています。
被毛の成長にもメラトニンが大きくかかわっています。
なので、冬毛は1年の中で昼の時間が最も短い冬至(12月22日)まで伸びますが、日照時間が長くなるにつれて徐々に抜け落ちてきます。
あまり早い時期に馬服をかけると、自然に生える冬毛の量は減ってしまいます。
冬の間も運動が可能であれば、運動を続けるべきです。
ですが冬毛モコモコの馬は、運動で汗をかいても寒い時期に全身洗ってあげることができないかもしれません。空気の層を作るまで乾かすには、相当な時間を要して、体温を下げてしまいます。
そのような、定期的に運動をさせる馬は、トレースクリッピング(毛刈り)をしてあげるようにしましょう。そして、手入れ後や平常時には馬服を着せてあげるのが良いでしょう。
馬服をかける際も、十分に乾かしてあげてから掛けましょう。
水と餌(エネルギー)
水
冬は夏に比べて汗をかきにくいでしょう。ですが、冬には水分摂取量が落ちてしまいがちなので、注意が必要です。
普段の生活で脱水することはあまりありませんが、水分摂取量が低下することで便秘を引き起こし、疝痛になりやすくなります。
成馬の一日の水分摂取量は35~45ℓ程度です。
夏に放牧されていた馬は、放牧地内の青草を食べています。生草には水分が60~80%含まれているのでかなりの量の水分をそこから吸収することが可能です。ですが、日本では冬に草が生えていないことが多く、放牧されていない馬も含めて多くは乾草牧草を与えられています。
しっかりと水分摂取量を維持してあげることは、疝痛予防につながります。1日で便秘になることはありませんが、普段のボロが乾燥していると感じたら、水を沢山摂取できるように工夫しましょう。
低温環境下で、ポニーの水分摂取量を調査した報告があります。与える水の温度を7~18℃程度の温湯にすると、飲水量は40%も増加しました。それ以上熱いと、暖かい水を好まない馬もいるので、特にはじめのうちは必ず飲水量をチェックしてみることが良いでしょう。
Drinking water temperature affects consumption of water during cold weather in ponies
Michaela A. Kristulaa,*, Sue M. McDonnell , Applied Animal Behaviour Science 41 (1994)
塩を加えることも飲水量を維持することに役立ちます。成馬は一日30~50g程度の塩分が必要です。えさに混ぜるなどして、摂取させましょう。馬房内に岩塩などを設置する方法もありますが、寒すぎるとそれも舐めることを嫌う馬がいます。摂取量をコントロールするためにも、直接与える方が管理はしやすくなります。
餌
寒さに対応するために必要なエネルギー量を大まかに計算する方法は
華氏18℃を1℃下回るごとに、必要エネルギー量は2%増加 という計算です。
☞ 摂氏-7.7℃ を 0.55℃ 下回るごとに、必要エネルギー量は1~2%増加する。
一般に、成馬の必要エネルギーは少なくとも体重1kgあたり30.3Kcal/kg/日程度とされています。
500kgであれば15Mcal/日です(運動しない場合)。
牧草であれば、乾物量として 500g ~ 1 kg 増やしてあげるのが良いでしょう。
穀物などの濃厚飼料・油など、エネルギー摂取の方法はありますが、この場合牧草が最も良いエネルギー摂取源となります。
牧草は、食べた後に大腸まで運ばれて、大腸で腸内微生物によって発酵されます。腸内発酵では、熱が発生するので体温維持に効果があります。
ただ、年齢・妊娠の有無・運動の強度・品種(太りやすさ)など、によって異なります。
あくまでも目安として考えて、一定間隔でBCSをつけて管理することが役に立ちます。
放牧地(パドック)
パドックなどに放牧する際は、氷に気を付けましょう。氷の張った地面(溶けかかった雪)はとても危険で、肢を滑らせて怪我してしまうことは珍しくありません。
北海道では、凍って滑りやすい玄関先などに塩を巻きます。
塩を巻くと水の氷る温度(凝固点)が下がって、0℃では液体のままになりので、この性質を利用して、塩を巻いて氷を溶かしています。
ですが、砂のパドックに塩を巻くのは絶対にやってはいけません。塩分をなめた馬が、塩と一緒に砂も摂取してしまって、『砂疝(させん)』という疝痛になってしまうことがあります。
換気
先にも書いたように、馬は寒い気候に対してある程度は適応することができる動物です。人の感覚で、厩舎内の温度を必要以上に高く保つ必要はありません。
窓もドアもずっと締め切っては、換気が悪くなってしまいます。
厩舎内の換気の悪さは、重度の馬喘息である、再発性気道閉塞(厩舎関連型)を引き起こします。
厩舎はシーリングファンなど換気をよくするものを設置して、人でなく馬にとって快適な環境を作ることが大切です。
Mahalo