下部呼吸器ってあまり聞かない言葉ですよね。下部呼吸器は下気道ともよばれる、気管・気管支・細気管支・肺胞からなる構造のことです。簡単に言えば喉より奥の呼吸器系のことを指します。
馬では、よく上部気道疾患が話題になりますが、最近の研究では、上部気道疾患と下部気道疾患との関連性が唱えられるようになり、
One Airway, One Disease という概念が生まれてきています。
馬喘息という言葉について
呼吸に異常をきたした馬の診断名として、息癆(そくろう)やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などと聞いたことはありませんか?
これらの言葉のいくつかは、多くの研究を経て整理する試みがなされました。
2016年に米国獣医内科学会(ACVIM; American College of Veterinary Internal Medicine)によって、
馬の喘息 “Equine Asthma” という言葉が提唱されています。
馬喘息は、大きく2つに分類されます。
- 炎症性気道疾患(IAD:Inflammatory airway disease)
- 再発性気道閉塞(RAO: Recurrent Airway Obstruction)
これまで、Heaves/息癆(そくろう)、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、Broken windと呼ばれてきた病気は、再発性気道閉塞(RAO)に含まれます。
炎症性気道疾患 (IAD:Inflammatory airway disease)
軽度から中等度の『馬喘息』のことを指します。一般的に若齢の馬(早ければ1歳)にみられる呼吸器疾患で、咳・運動能力低下などがみられ、内視鏡検査をすると気管内の粘液の増量がみられます。
安静時には、その呼吸方法に明らかな異常を認めませんが、以下のような症状がみられます
・1カ月以上にわたる発咳(発熱なし)
・最大運動(全速力)能力の低下
・運動後の呼吸の戻りが悪い(元に戻るのに時間がかかる)
・中等度の水っぽい鼻水~白い鼻水
・病気が悪化すると、運動不耐性となることもある
正確な病態発生の機序はわかっていませんが、厩舎内の埃などが原因と思われています。
再発性気道閉塞(RAO: Recurrent Airway Obstruction)
重度の馬喘息にあたります。これまでCOPDとかHeaves・息癆と呼ばれていたものが含まれます。
人においてしばしば見受けられるCOPDは、主に喫煙に関連した肺気腫や慢性気管支炎を合わせた疾患のことを指します。馬の病態は、それとは全く異なるため現在は使われなくなってきました。
RAOに罹患した馬は安静時でも努力呼吸(※呼吸困難のため努力的に行う呼吸)となるので、経過が長くなると、異常な腹筋が過剰に発達した状態 ”Heaves Line” がみえるようになります。


RAOはさらに2つに分類されます
- 厩舎関連型(Barn-associated Type)
- 夏季放牧関連型(Summer pasture associated Type) : SPAOPD
『厩舎関連型』は、厩舎内で飼われ、乾草を与えられている馬に多くみられます。一般に、厩舎滞在時間の長くなる冬から春にかけて症状が悪くなる傾向があります。
『夏季放牧関連型』は、放牧されている馬にみられるタイプで花粉が原因です。一般的に夏から初秋にかけて症状が悪化します。
RAOは、基本的にはアレルギー反応によって気管支に炎症が起こる病気です。長期間の炎症が、気管支の肥厚や、気管粘液の漏出を促し、咳や呼吸困難などの慢性的な症状を引き起こします。
一般的なアレルゲンとしてはカビ・有機粉塵・乾草や藁に含まれるエンドトキシンがあげられています

アレルゲンを吸入すると、気管や気管支の筋肉が痙攣(けいれん)を起こして気管・気管支が細くなり(気管支痙攣)息が吐き辛くなります。加えて、粘液が分泌・貯留することで、さらに換気が悪くなります。
RAOは通常9~12歳の間に初回の発症を認めることが多いとされ、程度に差はあれど、成馬の12%が罹患しているとの報告もあります。慢性疾患のため、多くの馬は罹患しながらも比較的普通の生活を送っています。ですが、過労や埃っぽい乾草等のトリガーによって、急に誘発されることもあるので注意が必要です。
RAOの母馬から生まれた仔馬は、のちにRAOに罹患しやすいことが分かっており、遺伝的な要素があると考えられています。
初期の症状は
鼻水・乾いた咳 など軽度であることも多いですが、進行すると一般的に症状は重くなります。
慢性の咳 ・鼻水 ・運動不耐 ・呼吸困難(努力呼吸)・体重減少 ・鼻翼開帳
最初は運動時のみに症状が出る傾向にありますが、悪化するにつれて安静時にも症状が現れ始めます。鼻翼が開くのは、空気を沢山吸い込もうとするためです。IADとの最も大きな違いは 安静時に症状がみられるかどうかになります。 発熱は通常みられませんが、二次的な細菌感染が起きた際は発熱を認めることもあります。
次回??は
これらのアレルギーに対する予防法や、対処法・飼養管理方法などについて の予定
こうご期待
Mahalo