手根管(しゅこんかん);Carpal Sheath(カーパルシース)は、主に前膝(腕節)の後ろ側に位置する腱鞘(けんしょう)です。
腱鞘とは、その名の通り 腱(ここでは深屈腱や浅屈腱) を包む 鞘(さや)状の構造物で、正常ではごく少量の腱鞘液で満たされています。健康な馬では、手根管を触っても液が増えていないのでわかりません。
この手根管は、袋状の構造なので 炎症 ・ 出血 などによって液が増量すると、袋が膨れるので、触ったり見たりして、わかるようになります。
人では女性ホルモンの関与が疑われており、更年期以降の女性や妊婦、授乳中の方にみられることが多いと言われています。また、パソコンや、スマホの長時間の使用も発症に影響していると言われています。腱鞘内を通過する正中神経とよばれる神経が影響を受けるために、指先がしびれるなどの症状がみられます。
馬ではどのような症状がみられるのでしょうか。
腱鞘炎(手根管の腱鞘液増量)を伴う疾患 と 症状
手根管とよばれる袋の中には、
浅指屈筋腱 ・ 深指屈筋腱 それぞれの筋肉と腱の 移行部(筋肉から腱につながるところ) があります。ヒトと同様に、Medial palmar Vein(静脈) と Medial palmar Nerve(神経)も通過しています。
腱鞘に炎症を起こす疾患には
- 橈骨遠位掌側の オステオコンドローマ(骨軟骨腫)
- 橈骨遠位掌側の骨端部における 外骨腫
- 浅指屈筋腱の支持靱帯損傷
- 副手根骨の骨折
- 浅指屈筋腱炎
- 深指屈筋腱の不全断裂
- 深指屈筋腱の一部 (Radial head)の損傷
- 感染性腱鞘炎
以上の疾患の報告があります。 原因によっても症状は異なりますが、
腱鞘液の増量 ・ 跛行(軽度 ~ 重度) がみられます。
※ 牧場の方から相談される最初の症状で最も多いのは 『膝裏が腫れた』 とよく言われます。
ムズカシイ名前の病気が沢山ですが、、、
代表的な疾患オステオコンドローマの手術時画像 : 橈骨に棘(矢印)があって、深屈腱にひっかき傷があるのがわかります
こんな棘が骨から出て腱を引っ掻くので、腱鞘の中は出血だらけになります。。。。恐ろしや。
数日間、運動を控えるとすぐに引くことも多くあります。
ですが、原因によっては運動再開してまた増えることを繰り返します。
手根管 の位置
手根管の液が増量したときに外から見える位置はどこでしょう
縦に長い構造(袋)ですが、腕節の内側と外側でちょっと位置がちがいます。
縦に 8 ~10cm ほどの長さがあります。
一番わかりやすいのは 腕節の
外掌側(後ろの外側)
でしょうか。
チェックするときのコツは
①腕節の下の内側を押さえる (袋の中の液が移動して上に移動してわかりやすくなります)
②別の手で 腕節の 後ろの外側 を触ってみましょう。
プクっと膨れて触れば、腱鞘液が増量している証拠です。
治療
原因疾患によって治療内容が異なりますが、
腱鞘鏡手術(けんしょうきょう;Tenoscopy)をおこないます。皆さんのよく知っている関節鏡を手根管の中に挿入して行う手術です。
手術は馬を仰向けにして、行います。
病態によって処置の内容が異なります。 詳細は 次回の For Vet ver. で。
予後
一般的によくみられる、オステオコンドローマ や 骨端部の外骨腫
あるいは 深指屈筋腱の一部 (Radial head)の損傷の術後の予後は比較的良好です。
順調であれば、術後3カ月を待たずに軽い騎乗運動が始められます。
その他の疾患は、程度によって大きく予後が異なります。
腱鞘液の増量は、何かしらの異常が表現されている状態です。
愛馬のチェック(特に育成期の若馬に多いですよ)に加えてください。
異常を見つけたら、まず担当の獣医師に相談して検査をしてもらいましょう。
検査・治療の内容については、次回のFor Vetへ
🐎Mahalo🐎