馬の輸血、聞いたことありますか?
人と同じように、馬も貧血や大出血で血液が足りなくなった時や、重い感染症にかかった時に輸血が必要になることがあります。

今回は、帯広畜産大学の 武山 暁子助教 にわかりやすく解説してもらいました🐎 Mahalo
馬の輸血には2種類ある
人 も 馬も 血液は おおきく2つにわけられます。
ひとつは『血球成分』、もうひとつは『血漿』です。
治療の目的によって、輸血したい内容が変わります。

馬の輸血には、大きく分けて 全血輸血 と 血漿輸血 の2種類があります。
1. 全血輸血
- 赤血球を含む血液をそのまま輸血 する方法
- 大出血や重度の貧血 に対して行われる
- 冷凍保存ができないため、必要な時にドナー馬(血を提供する馬)から採血する必要がある
2. 血漿輸血
- 血液の中から 赤血球や白血球を取り除き、血漿だけを輸血 する方法
- 免疫不全の子馬や感染症の治療 に有効
- 冷凍保存が可能 なので、事前にストックを作ることができる
馬にも血液型がある
人間にはA型やO型などの血液型がありますが、馬にも血液型があります。
馬の血液型は 8つの主要グループ(A、C、D、K、P、Q、T、U) に分類されており、その中でも 赤血球の表面にある抗原AaとQaは輸血の際に重篤な拒絶反応を引き起こす原因になりやすいことが分かっています。
Aa抗原やQa抗原をもつ血液型の馬に対して、Aa抗体やQa抗体を持つ馬の血液を輸血すると抗原抗体反応が起こり、溶血反応(赤血球が壊れてしまう)が起こってしまいます。
つまり、適切なドナーを見つけないと、輸血がかえって危険になる ことがあるのです。


ユニバーサルドナーとは?
馬の輸血を安全に行うために重要なのが ユニバーサルドナー です。
ユニバーサルドナーとは?
どの馬に輸血しても副作用を起こしにくい特殊な血液型を持つ馬のこと
- Aa抗原・Qa抗原を持たない
- 抗赤血球抗体を持たない
- 輸血による拒絶反応を起こしにくい
しかし、このユニバーサルドナーは とても珍しく、サラブレッドでは0.3%しかいません。最もユニバーサルドナーが多いのはハフリンガー種で32%と言われています。
ところが、最近の研究で日本の重種馬(ばんえい競馬の馬など)は比較的ユニバーサルドナーが多い ことが分かりました。
Investigation of erythrocyte antigen frequencies in draft horse populations in Japan to assess blood donor suitability Hironaga Kakoi et.al.
J Equine Sci. 2021 Mar;32(1):17-19. doi: 10.1294/jes.32.17. Epub 2021 Mar 16.

ばんえい競馬を走る重種馬は体重1トンを超える馬も多く、世界最大級の馬と言われています。
ハフリンガー種やサラブレッド種に比べて重種馬は体が大きいため、
一度に多くの血液を採ることができると考えられます。
ユニバーサルドナー以外にもドナーになれる?
はじめに書いたように、馬の輸血には全血輸血と血漿輸血があります。どちらにも適しているのはユニバーサルドナーの馬ですが、
血漿輸血に限っては抗赤血球抗体を持たない馬でもOKです。
命の危機を救ってくれるかもしれない馬が、あなたの牧場にもいるかもしれません。一度調べてみるのも良いでしょう!
全血輸血:ユニバーサルドナーの馬
血漿輸血:ユニバーサルドナーの馬、抗赤血球抗体を持たない馬
【注意点】抗赤血球抗体は何らかのきっかけ(妊娠、出産、輸血を受けるなど)で保有するようになることがあります。定期的に確認しましょう。
次回は、日本では極めて前衛的な
馬の輸血プロジェクト
について紹介!! こうご期待! Mahalo