馬は、胃の入り口、食道との境目である【噴門;ふんもん】の筋肉による締め付けが強いため、胃の内容をじぶんで吐出することができない動物です。
馬の胃の容量は、成馬で約15~20L未満。仔馬であれば、2~3L。胃内には、口から摂取したもの以外に、上位消化管から分泌される液体も逆流することがあります。
胃が破裂すれば、消化管内容が腹腔内にもれるため、(もれなく)感染性腹膜炎になります。
そうなると、救命することはほぼ不可能となります。
ですから、胃が張った状況では破裂する前に
早期に・確実に
胃カテーテルを挿入して、胃の減圧をする必要があります。
どんな時に 胃カテーテルをいれるべきか
- 小腸疾患が疑われる疝痛時 (原因が特定できない疝痛も含む)
- 超音波検査で 胃の拡張・十二指腸の拡張 を認めた時
- 食道閉塞 (治療の一環として)
- ロタウイルス感染などで 歯ぎしりが酷く 軽い疝痛症状を呈する仔馬
- 二次診療所への搬送前
原因を特定することが難しい疝痛はたくさんあります。
胃カテーテルを挿入することで、逆流があるかどうかを確認する(胃内容逆流試験)ことで、診断につながる情報を得ることができます。
ガスや消化管液などが逆流することで、胃の減圧が可能となります。
また、食道閉塞の際は、閉塞部位の手前までカテーテルを挿入して洗うことで閉塞した食物を崩したり、流すことができます。
必ずではありませんが、胃が張った馬は、 前カキをする ことが多いように感じます。
注意してみてください。
挿入する際の注意点
慣れた獣医師であれば、それほど難しくありませんが、中にはカテーテルを嚥下することを嫌がる馬もいます。
胃カテーテル挿入に関わるコンプリケーションは、主に 鼻出血 と 誤送入 です。
気管に誤挿入すると、その後の事故につながりますので、確実に食道に入っていることを確認します。
- 馬の大きさに合った適切な太さのカテーテルを選ぶ
- カテーテルを濡らし、 ゼリーなどを塗布して滑りをよくする
- 鼻捻子で保定する
- 総鼻道の腹側を沿わすように挿入する
- 嚥下を確認する
- 食道を通過させる際の抵抗を確認する
まず、馬の大きさにあった太さを選択しましょう。新生仔馬から成馬まで診られるのであれば、3~4種類の太さを用意します。
以前に販売予定とお知らせしていた 胃カテーテル が(株)クリエートメディックより販売になりましたので、参考にしてください。 当院で用いているものですが、コシ・長さなどがちょうどよく、使い勝手の良いものに仕上がっていると思います。


以下、挿入に関するちょっとしたコツを。。。 新人獣医師さんの参考になれば💦
カテーテルは、使用前に先端を熱めのお湯に浸けると柔らかくなり使いやすくなります。
右利きの人であれば、 左手を鼻梁にのせ鼻翼を左手の親指で開きます。
ゆっくりと総鼻道の腹側から挿入します。この時、カテーテルの先を腹側にしなる方向へ向けます。

背側へ向けると、篩骨洞にあたって出血させてしまう危険があるので注意が必要です。
鼻道を抜けて、咽頭に入る直前に鼻道が一番狭くなるので、軽い抵抗を感じます。慎重に優しくいれないと、ここも粘膜から出血しやすい箇所です。カテーテルを温めた後に、先端を縦長方向へ潰すように癖付けして挿入すると、スムーズに通りやすくなります。
次に喉頭部で強い抵抗を感じます。
馬の頭の位置を伸ばしすぎないように気を付けながら、咽頭部でカテーテルを180℃回転させて、腹側にしなった先端を背側(食道側)へ向ける意識で挿入しましょう。

嚥下した感触がわかったら、ゆっくりとカテーテルを進めます。
この時、正確に食道に入っていれば軽い抵抗を感じますが、気管に入っているときは殆ど抵抗がありません。
多くの馬は気管に挿入した際は咳をしますが、必ずしもそうとは限らないので注意が必要です。
最後に、噴門を通る際に手ごたえを感じることもありますが、そうでないこともあります。
無事に胃内に到達すると、カテーテルの中から 【ガラガラガラ や ゴロゴロゴロ】といった、胃内のガス音が聞こえます。 気管内だと、【スースースー】 呼吸音が聞こえます。
自信がなければ、少量の水を入れて確実に確認しましょう。 気管内に水を入れると、咳をします。
胃の中に、食渣(草など)が沢山詰まっているときは、カテーテルが簡単に詰まって逆流しにくいこともあります。息を吹き入れて、先端の食渣をよける、あるいは呼び水をいれてから逆流を確認します。
胃・十二指腸の拡張の確認
胃カテーテルを挿入する重要な指標の一つであるエコー検査。
このような所見があった場合は、可及的速やかに胃の減圧を実施してください。
胃拡張の時の エコー画像
プローブの当て方や、場所に関しては、 以前のこちらの記事を参考にしてください
FLASH - 1 胃拡張の確認


十二指腸拡張の時の エコー画像
プローブの当て方や、場所に関しては、 以前のこちらの記事を参考にしてください
FLASH - 2 十二指腸拡張の確認


さいごに
強い痛みがみられるとき、慣れない獣医さんも緊張すると思います。診察結果から原因がわからないときや、胃・十二指腸の拡張が疑われる場合、二次診療施設への搬送前、必ず胃カテーテルを入れましょう。
鼻捻子がうるさい、 痛みが激しくて立っていられない、 痛みによる不安で暴れている このような時でも、救命のためには胃カテーテルを挿入すべきです。
必要であれば、鎮静処置をおこなってから、ヒトと馬の安全に気を遣って胃カテーテルを挿入しましょう。
追記:胃カテーテルを留置するのであれば、処置時以外は蓋をしておきましょう。