馬の胃が破裂してしまうことがあります。残念ながら胃が破裂すると救命はほぼ困難です。なぜ胃が破裂するのでしょう。どうやって防ぐことができるでしょうか?
同時に、胃のエコー検査(For Vet)も。本シリーズの前回は Ⅳ:小腸拡張・壁肥厚の有無 でしたが、5・6は一旦とばして、Ⅶの胃拡張の有無チェック
疝痛時の腹部超音波検査:Ⅳ 小腸拡張・壁の肥厚
さて、なぜ馬の胃の検査が重要なのでしょうか。
馬の胃
胃は、食道から繋がる最初の消化器になります。食べ物をプールし、たんぱく質分解酵素である『ペプシン』や『塩酸』と、食べ物を混ぜることで固形物の分解を助ける役目を担っています。
馬の胃は、お腹の前方・横隔膜と肝臓のすぐ後ろで、体の左側にあります。その大きさは、成馬で10~20Lくらいです。
馬の胃破裂
馬の胃が何らかの理由で破裂あるいは穿孔(穴が開くこと)した場合、手術で救命できた報告もありますが、ほとんどの症例で救命が不可能です。
胃が破裂すると、胃の中にあった草や穀物などの食べ物が、お腹の中に漏れ出てしまいます。それらの中には細菌が多く含まれているため、お腹の中が感染してしまい 『感染性腹膜炎』 と呼ばれる状態となってしまいます。お腹の大きな馬では、一旦こうなってしまうと手術をしても助けられません。
馬において胃破裂が起こりやすい原因がいくつか挙げらていれます。
解剖学的特徴として
- 馬のサイズ や 食べる量に比較して 胃の大きさが小さい
- 食道括約筋がよく発達しており、休息時でも高い筋緊張が保たれていて、吐けない
- 食道がやや斜めに胃につながるため、胃が拡張した際はさらに噴門(食道と胃の境目)が圧迫される
- 胃がお腹の前にあるため、強固な露骨に囲まれており、腹筋が収縮しても吐く力にならない
- 上記の解剖学的特徴により嘔吐できないが、脳には嘔吐中枢がある
運動
胃の運動には2つの機能があります。1つは餌を食べた際に、胃の緊張を緩和することでリザーバーとして機能する働きです。もう一つは、胃の分泌物と食物を撹拌させ、十二指腸方向へ内容を送り出す働きになります。
馬の胃には他の動物と比較して抑制性の腸管神経が2倍分布していることが分かっています。
Excitatory and inhibitory enteric innervation of horse lower esophageal sphincter – PubMed (nih.gov)
これが何を意味しているのかは議論の分かれるところです。胃底部の容積を増す働きなのか、運動能低下につながっているのか。。。。 いずれにしても、これらの生理的特性は、胃に食物が滞留しやすい解剖学的素因を悪化させる可能性があると思われます。
馬の胃破裂は 一次性 と 二次性 に分類されます。
一次性(原発性) : 胃の疾患による破裂 と 特発性(原因不明)の胃破裂
二次性(続発性) : 小腸閉塞や大腸疾患 に起因する胃の排出障害によって生じる胃破裂
馬の胃潰瘍が多いことは良く知られていますが、胃潰瘍の罹患率からすると、胃破裂の原因としての胃潰瘍は一般的ではありません。(仔馬ではよくみられる傾向にありますが)
多くの胃破裂の症例は、大弯に沿った長い線状の漿膜裂傷の下に小さな粘膜の裂傷が存在します。これらは、胃の拡張と胃壁の物理的破壊が原因であるという考えを裏付ける理由の一つになっています。
胃が大きく拡張しても破裂しないこともあります。これは、膨張(胃拡張)が長期間にわたってゆっくりと起きているためと考えられています。
胃拡張
胃破裂の原因となる胃拡張。その原因として
食物の停滞・液体やガスの蓄積 があげられます。
食物の停滞 は最も一般的に認められる原因ですが、その理由はあまりよくわかっていません。胃の運動能低下・分泌不全・寡飲(かいん:水を飲まないこと)・低品質で粗悪な粗飼料、あまり噛まないで済む餌、膨張あるいは塊を形成する餌、などがその原因として考えられています。
The clinical and pathological features of gastric impaction in twelve horses – PubMed (nih.gov)
胃の食物停滞を認め、死に至った馬たちの解剖所見では、 肉眼的な筋層の肥厚・繊維化・筋炎がみられており、慢性的な病態生理学的異常によって食物停滞を起こしやすい馬がいるのではないかと思われます。
液体の蓄積
水の多量摂取、医原性の水の多給(胃カテーテルで水を入れすぎる)、濃厚飼料多給による胃液の分泌過多など
ガスの蓄積
発酵性の食物の多給、亜鉛やリン化アルミニウムなど胃酸と反応してガスを発生する毒物、気管チューブの誤挿管 など
胃拡張のエコー検査
胃は大きな袋状の構造なので、重い繊維などは下に、その上に液体、さらに上にガスという層状構造を形成します。
胃が第12肋間よりも尾側まで広がる
あるいは
5肋間を超える幅 を有する場合 は 胃拡張 と判断します。
まとめ
絶望的な予後を伴う 馬の胃破裂 は、 『なぜ起こったのか』、『どうすれば防ぐことができたのか』の説明ができず、獣医師にとっては未だ悩ましい診断です。
これらを明らかにするためには、胃の運動障害の原因について病態生理学的研究が進むことが重要と思われます。
あなたの愛馬を救うために最も重要なことは
一次性・二次性の胃拡張に関係なく、疝痛時には、胃破裂の発生を未然に防ぐことが救命に繋がります
Mahalo