疝痛と思われる症状の馬を診察する際、獣医師は何を考えて、どのような検査をする必要があるでしょうか。
二次診療所に搬送できる可能性があるのであれば、無い時と何が違うのでしょうか?
疝痛時の診断の考え方
馬の疝痛の確定診断はしばしば困難です。ですが、外科的治療や集中治療が必要かどうかの判断が、馬の生命を左右することが多いため、適切な治療法を決定するような方向性で診療を進める必要があります。
外科手術が必要な症例に対し、いつまでも鎮痛剤や鎮静剤などを投与しても、全身状態を徐々に悪化させるばかりか、手術の成功率の低下をもたらします。
立地上、あるいはその他の理由によって、外科手術を選択しないことも多いと思いますが、獣医師がやれることは沢山あるわけではありませんし、基本的にすべきことは大きく変わりません。
痛みで苦しむ馬を目の前に、適切な治療や予後判断を迅速かつ正確に行うためにはトレーニング(経験)が必要です。頭の中を整理しておきましょう。
必要な道具
聴診器、 胃カテーテル 、エコー、アルコール(orお湯)、鼻捻子、直検手袋
胃カテーテル: 大きさに合わせて 3種類ほどあると理想的です (仔馬用・仔馬~400Kg・400Kg以上)

私が使用しているカテーテルの
外径×長さ は
①13×210 ② 15×270 ③ 18×300
(cm) です
挿入時には滑りをよくするためのゼリーなどがあるとよいでしょう。
胃カテーテルは、クリエートメディック株式会社さまと共同で材質、太さなど検討したうえで作成していただきました。未定ではありますが、近々に発売予定とのことです。発売が決まりましたら、当サイトでもアナウンスする予定です。しばしお待ちください。
エコー : コンベックスプローブ が最も適していますが 直腸検査用のリニアプローブも使えます
アルコールは、皮膚の汚れや皮脂を落とし、水溶性超音波ゼリーをなじみやすくしてくれます。
疝痛状態の馬は、横臥して汚れていることも少なくありません。汚れているとエコー画質が著しく低下します。診療依頼の連絡をもらったら、ブラシをかけて、ある程度きれいにしてもらっておくのも良いかもしれません。必要に応じてバリカンで毛刈りを行うこともあります。
診察
①一般身体検査
TPR、粘膜の色は?(充血・蒼白・トキシックなど)、CRT、腹部聴診
②経過の聴取
上記の検査を行いながら、必要な情報を飼養者から聴取します
発症時間・発症状況・移動歴・疝痛歴・駆虫歴・運動内容・飼料内容変更の有無・ボロの状態・痛みの症状(前かき?ゴロ?横臥?) など
痛みの具合は? 立っていられるか? 自傷はないか?
③血液検査
現場ですぐに結果がでる項目は少ないかもしれませんが
TP / PCV / Lac. / 電解質 くらいは測定できると、疝痛時の状態把握の参考になります。
④超音波検査 : ヒトの医療において、外傷の初期診療における迅速簡易超音波検査法FAST(Focused Assessment with Sonography in Trauma)という考え方があります。
馬の診療においても FLASH(Fast Localized Abdominal Sonography of Horses)法があります。
2011にベルギーのリエージュ大学から発表された検査法で、疝痛の緊急性・外科的治療の必要性の判断を迅速かつ簡便に行うために開発された馬の腹部エコー検査方法です。
普段に馬の腹部超音波検査を行う機会の少ない先生にとっては、難しいと思われるかもしれませんが、豊富な臨床経験がない獣医師でも、緊急性を判断するために必要な判断ができるように作成されたプロトコールでですから、ぜひ活用してください。
多くの症例が、単のフルニキシンメグルミン投与で痛みを和らげることができますが、複数回の投与が必要な症例や、鎮痛剤をつかわないと痛みがコントロールできない症例に関しては、エコー検査を必ず行いましょう。
⑤胃内容逆流試験 : 馬の近位消化管は24時間で約120ℓの消化管液を分泌していますが、胃の容量は20ℓ程度しかありません。加えて、噴門の括約筋が固く閉まるため、上位消化管の閉塞の際は胃に消化管内容が貯留して、数時間で胃破裂を招きます。
胃拡張や十二指腸拡張を超音波で認めた際は、可及的速やかに胃の減圧を行いましょう。搬送する際も、胃拡張を認める馬では、胃の減圧をしてから搬送しなければなりません。
⑥直腸検査 : 直腸検査でしか診断できない疾患もあります。疼痛が酷くて昏倒している状態では危険ですが、可能であればやっておきたい重要な検査です。ですが、馬の直腸は非常に傷みやすく、無理に行うと穿孔することもあります。
350Kg以下の馬では、無理に直腸検査をするのはやめましょう。
検査の数分前にブチルスコポラミン(ブスコバン注1A:20mg/100Kg i.v.)を投与すると、腹腔内操作がやりやすくなります。
さいごに
- ただちに外科的介入が必要な状態
- 外科的介入が必要になるかもしれない状態
- 緊急性の低そうな状態
疝痛馬の診療を終えた際に、状態をこの3つに分類してください。手術する選択肢があるのであれば、①か②に分類される症例では、搬送先に連絡し早急に搬送の手はずを整えましょう。
身体検査や血液検査を含む検査の詳細については、今後少しずつ掲載する予定です。