マイコトキシンはカビの産生する毒素であり、馬に健康被害を及ぼす可能性があります。
今回は、もう少し各論についてご紹介します。
マイコトキシン中毒は、濃厚飼料にだけみられる問題ではありません。カビが発生する餌、つまり乾草においても、マイコトキシン中毒は起こります。
スペイン食品安全栄養庁科学委員会の報告(2021年)によると、直近の20年で、食品中のマイコトキシンが増加傾向にあることが分かっています。
日本は麦の生育後期に降雨が多い気候のため、赤カビ病(フザリウム属感染)によるデオキシニバレノール汚染が起こりやすい環境といえます。
乾草は、熱と水分があればすぐにカビが生えます。水分含量の高い状態の乾草(15%)などは、カビの繁殖に最適な環境となってしまいます。飼養されている馬たちに、元気がない・食欲がない・軽度の呼吸器の問題(咳など)がみられたら注意してみた方が良いでしょう。
高齢馬や免疫力の低下している馬では、同じマイコトキシン暴露でも影響が大きいので、特に注意を払う必要があります。
飼料に生えるカビ
カビにもたくさん種類がありますが、以下の種類のカビが馬に与える飼料に発生しやすいカビです。
アルタナリア Alternaria, アスペルギルス Aspergillus,
クラドスポリウム(黒カビ)Cladosporium, フザリウム(赤カビ)Fusarium,
ムコール(ケカビ) Mucor, ペニシリウム(青カビ)Penicillium,
リゾプス(クモノスカビ) Rhizopus
カビのすべてがマイコトキシンを生成するわけではないですが、カビの胞子そのものが(アルタナリアなど)馬の下部呼吸器疾患の発生に関連しているので、それだけでも注意が必要です。


マイコトキシンと健康被害
アフラトキシン Aflatoxin
アスペルギルス属の多くの菌種によって産生される毒性代謝物です。代表的なものとしてAspergillus flavus / parasiticus / nominusなどがあげられます。これらは、高温などの一定の生育環境が揃うと、収穫前でも収穫後でも生成されます。
高温環境で栽培・収穫された大豆・トウモロコシ・燕麦などは、基本的にアフラトキシン中毒の地理的要因として認識すべきで、栽培中に干ばつなどの過度なストレスを受けた場合はさらなる注意が必要です。
アフラトキシンは、主に肝臓を標的とします。運動失調、振戦、発熱、食欲減退、体重減少、黄疸、血便、血色素尿などの症状がみられます。
オクラトキシン Ochratoxins
アスペルギルス属やペニシリウム属によって産生する物質です。温帯および熱帯地域で栽培された大麦、トウモロコシ、小麦から検出されます。腎不全を引き起こす可能性があります。臨床症状としては、食欲不振、成長遅延、運動能力低下、免疫抑制、腎障害による多飲多尿などがあげられます。
トリコテセン類 Trichothecenes,
フザリウム属によって生成されます。トリコテセン類に含まれる デオキシニバレノール(DON、ボミトキシン)は、気温が高温と低温の間で変動した後に生成されます。飼料に含まれるマイコトキシンは単独ではなく同時に数種認められることも多く、特にDONはゼアラレノンなど他のマイコトキシンと同時に見られることの多い毒素です。食欲低下、免疫抑制、成長遅延、、成績不良、腸の炎症や下痢、肝障害、疝痛などを引き起こします。
ゼアラレノン Zearalenone
フザリウム属によって生成されるため、DONと同時に含まれることの多い毒素です。トウモロコシなどに含まれます。ゼアラレノンは、性ホルモンであるエストロゲンに類似しており、生殖系に影響を及ぼすと言われています。
雌馬では、子宮の肥大、直腸脱、膣脱、流産、不妊などがみられ、牡馬ではペニスの弛緩が観察されています。
フモニシン Fumonisin
フザリウム属によって生成されるマイコトキシンで、中枢神経系に重大な問題を引き起こし、生命を脅かしうる毒素です。
いくつかの化合物が知られており、そのうちの『B1』と呼ばれるフモニシンは、馬では『白質脳軟化症 ELEM:Equine Leukoencephalomalacia』としてよく知られています。無気力・嗜眠・平衡感覚の異常・発作・よろめき など、重度の神経症状に発展し、最終的には死に至ります。
カビたトウモロコシを与えることで発症し、突然運動失調や失明などを発症した後に、死亡した報告もあります。治療法はないため、予防が重要です。

エルゴアルカロイド Ergot Arkaloid
Ergot(麦角)に含まれるアルカロイドです。広義ではこれらもマイコトキシンに含まれます。
アルカロイドの定義は近年変化してきましたが、一般に含窒素有機化合物のことを指します。エルゴアルカロイドは、エンドファイト(植物寄生菌)によって作られた毒素のことを指します。
トールフェスクに含まれるエルゴバリンや、ペレニアルライグラスに含まれるロリトレムBなどが代表的なマイコトキシンです。これらは、種子になるとさらに濃縮されるため、種子ができる前に刈り取ることが接種を減らすことにつながります。

エルゴバリン Ergovaline
エンドファイトであるNeotyphodium属から産生されるアルカロイドのうち、家畜毒性において最も問題となりうる物質です。セロトニン受容体やドパミン受容体にアゴニストとして働き、平滑筋、脳内・末梢の血管を収縮させます。加えてプロラクチン放出を抑制することがわかっています。
エンドファイトが関連したこれらの症状は、フェスクトキシコーシスと呼ばれます。そのほかの関連する症状としては、暑熱に対する体温調節障害、唾液分泌亢進、食欲不振がみられます。
妊娠雌馬における妊娠期間の延長、難産、胎盤の肥厚、初乳の分泌量の減少、乳汁分泌の低下などが問題となります。
治療にはドパミン受容体アンタゴニストであるドンペリドンの投与が有効であるとされています。
ロリトレムB LolitremB
ロリトレムは『ライグラス・スタッガー』と呼ばれる病気を引き起こします。これは、運動失調、頭部の震えなどの神経症状を呈する疾患で、外部刺激に対して過敏な反応を示すこともあります。幸いなことに、感染した牧草地から馬を移動させると、これらの徴候は急速に改善します。
スフラミン Slaframine
スラフラミンは、Rhizoctonia leguminicolaという真菌から発生します。湿潤・多湿な環境でクローバーやアルファルファなどのマメ科の植物に発生し、牧草や干し草にも含まれます。スラフラミン摂取の最も一般的な兆候は、過剰な唾液分泌、すなわち “よだれ “です。その他の兆候としては、過度な喉の渇き、頻尿、体重減少、脱水があります。馬は、感染した飼料の摂取を止めれば、1~2日以内に回復します。

今回も長くなったので、、、
続きは、これらのマイコトキシンと疝痛の関連性や、予防策について。。補足
Mahalo