馬の飛節が腫れたとき、感染性関節炎だけでなくフレグモーネ(蜂窩織炎)でも重度跛行になります。 鑑別と穿刺の注意点を解説します。
感染性関節炎は、整形外科的エマージェンシーと言われています。
典型的な症状は
『跛行』・『関節液増量』・『発熱』ですが、臨床ではそう簡単でないこともあります。
特に 飛節 の関節炎は、簡単なようにみえて 他の疾患と見分けることが難しいことがあります。
今日はそんなお話。
飛節の「感染性関節炎」との鑑別するべき疾患
『飛節が腫れている』といっても、その原因はさまざま。正しい構造を知らなければ判断簡単ではありません
柔らかく、可動性があれば「液体」を疑うかもしれません。
『骨折』のこともあります。
指で押したら、「指圧痕」が残るような腫れは炎症性の腫れかもしれません。
これらはとても大切な違いです。
液体のたまる場所も『関節液・腱鞘液・滑液嚢液』など、色々あるし、
その他に、皮下に液体がたまることもあるよ
飛節のフレグモーネ Focal Peritarsal Infection
飛節(tarsus)周囲が熱く腫れて、そして跛行は4/5〜5/5。
真っ先に「感染性関節炎」を疑うかもしれません。
でも、『触ると激痛』これはちょっと違う…
飛節周囲の“局所感染(focal peritarsal infection/局所フレグモーネ)”が、関節炎そっくりに見えることがあります。
フレグモーネを見た事のある人は沢山いるでしょう。でも飛節のフレグモーネはちょっと違います。
激烈に痛いんです。どうしてでしょう

飛節(左)の正面からの図
17 Retinaculum(支帯)
という構造があります。
支帯とはバンドのような構造を指します。
このretinaculum(支帯)構造があるため、炎症で起きた腫れが上下方向に広がりにくく、局所で圧が上がって「締め付けられたような腫れ方」になり、痛みが過剰に強く出ることがあります。
飛節のフレグモーネ Focal Peritarsal Infection
A study of ten cases of focal peritarsal infection as a cause of severe lameness in the Thoroughbred racehorse: clinical signs, differential diagnosis, treatment and outcome
Equine Vet J. 2001;33(4):366–370. Pilsworth RC, Head MJ.
- 飛節周囲の局所感染が、化膿性関節炎や骨折と紛らわしい臨床像を取ることを10症例で整理した報告
- 症例 : 2歳 2頭 、 3歳 8頭
- 初診時 : 体温 : 全例で体温上昇
- 初診時 : 血液検査 :
- 10例中7例 で白血球数の上昇(好中球)を認めた
- 10例中3例 は初診日に異常がなかったが、24時間後に急性炎症象が明確になった
- 24時間以内のSAA の上昇は 4例 であった。
9例は静注抗菌薬+NSAIDs+反復運動で完全回復。
1例は中足骨の骨髄炎を併発したが最終的に回復した。
診断で苦慮するポイント
- 感染性関節炎であっても、フレグモーネでも、
- 初診時の血液検査では診断できないことは珍しくありません
- (=血液検査では診断できない)
注意:採血が初日に「そこまで炎症っぽくない」ことがあります。ですが、翌日(24時間後)に白血球・好中球・フィブリノゲン・SAAなどが“跳ねる”ケースがあり、再検が診断精度を上げます。
フレグモーネに伴う感染性関節炎?
フレグモーネと感染性関節炎が併発することがあります。獣医師が頭を悩ますのはこのようなケースです。
感染性関節炎であれば、すぐに外科的に手術することが望まれるからです。
どのようにして判断するか、『針を刺して関節液を検査』すればよいのですが…
感染のある皮下(関節周囲)に針を通過させ、汚染のない関節を刺してしまったら、感染(細菌)を関節内に広げてしまう可能性があります。
In vitro assessment of bacterial translocation during needle insertion through inoculated culture media as a model of arthrocentesis through cellulitic tissue
AJVR. 2015;76(10):877–881. Smyth TT, Chirino-Trejo M, Carmalt JL.
- 蜂窩織炎(フレグモーネ)のような“汚染組織”を通過して関節穿刺した場合を、培地モデルで再現した研究
- ・Staphylococcus aureus を寒天培地に
- ・針の太さ(19G/20G/22G) による違いを観察
- ・貫通した細菌量が 33 CFU を超えた場合、内部(関節)に感染を起こしうる
- Staphylococcus aureus を用い、菌量(103〜106 CFU/mL)と針径(19G/20G/22G)で、針が運ぶ菌数の変化を評価した報告。
結果
・針の太さと細菌濃度はどちらも細菌移動量に影響
針が太い・細菌数⇑ はリスク増大
・すべての針で、条件次第では感染量(>33 CFU)を超えた
10⁵ CFU/mL では 19Gのみが感染量を超えた
20G・22Gは比較的リスクが低いが、ゼロではない
細菌濃度が高い場合は、どの針でも感染量を超える可能性がある。
もし穿刺が必要なら、20Gまたは22Gの細い針の方がリスクは低い
ただし完全に安全ではない
穿刺する部位は 底側など 蜂窩織炎 がみられない部位からアプローチすること
関節穿刺は必要最低限、しかし、
必用であれば可及的速やかに・正確に
症例 : 1歳/サラブレッド・雄
獣医師からの報告:今朝から重度跛行・発熱(40.0)・関節液増量&周囲の腫脹・圧痛強



関節液の性状 : WBC 520/μℓ(好中球37%,単球63%)
背側に貯留した液の性状 : 28,000/μℓ (好中球80%,単球20%)
関節液は綺麗で、関節周囲の炎症によって二次的に炎症が起きているだけでした。このような症例に対し、関節だけを洗浄しても良くなりません。皮下に液が貯留したスペースを洗浄・掻把して、治療しました。
1年後に 競走馬として中央でデビューしています。
最後に
時に、獣医師でも判断が難しいことがあります。
怪しいと思ったら、すぐにかかりつけの獣医師に相談してください。
Mahalo







