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(元)競走馬にみられた心奇形

 心奇形(しんきけい)とは、生まれつきに心臓や大血管(大動脈・肺動脈)の形・位置などに異常のある状態です。

 世界的に、馬の先天性心疾患の発生率は0.7~0.8%と報告されていますが、国内における発生率はこれまで明らかにされていませんが、約1800頭の解剖時に認められた心奇形の発生率は約0.8%でした。

現在の軽種馬生産頭数は年間で約7500頭~ですから、心奇形を有する仔馬が毎年生まれている可能性は十分にあります。

馬で最も一般的にみられる心奇形は、『心室中隔欠損』と呼ばれる疾患です。

心室中隔欠損症(VSD)

 右心室と左心室を隔てる壁である心室中隔に穴(欠損)があいた状態です。心臓内部の収縮期圧は、通常は右側(静脈血)よりも左側(動脈血)が高いので、血液が欠損孔を通過して左から右に流れてしまいます。

 欠損孔を通過して右心室にはいった動脈血は、再び肺動脈に送られて肺循環を通過します。

心臓は全身循環(大動脈方向)にも十分な量の血液を押し出さなければならないため、左心室は短絡した血液分(右心室に漏れ出た分)を押し出す仕事を常に追加で行うことになります。

 

そのため、左心室や左心房は大きく膨れて対応しようとしますが、限度を超えると心臓の力が衰えて、症状が発現します。

 心臓は、常にオーバーワークになってしまうため、エネルギーをたくさん必要とします。

そのため、成長遅延や成長不良、運動不耐などの症状がみられます。欠損孔が小さい場合は、1歳になるまで気付かれず、偶然に聴診で発見されることもあります。

心室中隔欠損症の馬の症状

成長不良 ・ 運動不耐 ・ 咳 ・ 鼻水 など

心室中隔欠損症のエコー画像 : 偶然に心雑音が発見されて検査した6カ月齢の雄馬 わずかな成長不良がみられていた

左図:心室中隔の欠損(矢頭) 右図:欠損孔を通過する短絡血流(カラードプラ)がみえている  基本断面②と同じ断面

心奇形の馬は競走馬になれるの?

競走馬は、強度の強い運動を必要とする動物です。心奇形があれば競走馬になることは難しいと一般的には考えられてきました。

これまで繋駕レースに出走したなどの報告はありましたが、サラブレッドで競馬となると…おそらくなかったのではないでしょうか。 

先日に 競走馬で2勝もした馬(収得賞金1千万以上)が引退した馬の診察をする機会がありました。

症状はなく、全く別の理由で診察した馬でした。

鎮静処置を行おうと聴診すると、心雑音が聴こえました。

心臓が収縮するたびに、モザイク色に表示された血液が、左心室から右心室へと流れています。

穴を通過する血液の速さは 5.5m/秒 ととても速いものでした。

VSDの予後としては、いくつかの因子が関わります。

欠損孔(穴)が小さければ小さいほど、通過する血液の流れは速くなります。大きな穴であれば、通過する血液の速さは遅くなります。

馬の場合、穴の大きさが2.5cm以下(450-500Kgの馬で)で、血流速が4.5m/秒以上であれば、予後は比較的良いと言われています。

さらに、その他の因子として、上記の項目があげられます。

教科書には書いてありますが、実際にこれほど活躍した馬から偶然に発見され、驚きました。

やはり、まず聴診をしっかりして、固定概念を持たずに診療することはとても大切です。

心室中隔欠損があっても、このような馬もいます。発見した際にはすぐにあきらめずに、専門の獣医師にご相談ください。

Mahalo