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さく癖 について

馬房の奥から ぐぇ ぐぇ 。。。。 嫌な音が聞こえます。 

さく癖(Cribbing)について、疝痛を引き起こす。ほかの馬にうつる。など色んな都市伝説がありあますよね。 今回はそんな さく癖について 獣医学観点からちょっとお話します。

さく癖とは

 馬が柵や飼い桶、バケツなどの固定物に前歯をかけた状態で、首の筋肉を縮めて後ろに引くことで空気を飲み込む動作のことを言います。さく癖は、『常同行動』と呼ばれる行為です。

常同行動とは、目的なく同じ行動を反復して行うことを指し、ヒトでは、自閉症・統合失調症などの症状としてあらわれることがあります。馬においても、ストレスやフラストレーションの結果として起こることが多いようです。

 ある調査では、5~15%の馬(飼われた)にみられると報告されていますが、サラブレッドはやや多いのではないかと思われます。ちなみに野生馬では観察されておらず、ロバにもみられない症状です。

 さく癖の原因ははっきりとしていませんが、脳機能の変化、胃腸の炎症、濃厚飼料の多給(粗飼料が少ない)、性別、品種、離乳時のトラウマ、放牧時間が短い、他の馬との交流が少ない、などが要因と思われています。

さく癖のもたらす問題

 さく癖の問題は、馬の健康上の問題 と 施設管理上の問題(牧柵や桶の破損など)につながります。

さく癖をする馬は、体重の減少、ボディコンディションの悪化、首の筋肉の発達異常、歯の過剰な摩耗などを認めます。また、疝痛の発症リスクが上昇すると言われていますが、明確な関連性はあきらかになっていません。疝痛を起こしやすい消化器系の不顕性の問題のある馬がさく癖をするのか、さく癖をするから疝痛になるのか。誰も知りません。

 疝痛との関連性を予測する根拠(仮説)としては、さく癖の際の腹圧の上昇が関連します。さく癖時は、横隔膜と腹部の筋肉が収縮するため、腹圧が高まります。

 疝痛の原因はたくさんありますが、さく癖と関連性があるとされているのは網嚢孔ヘルニア(EFE: Epiploic foramen entrapment)という疾患があります。肝臓と膵臓の間にある穴に小腸が吸い込まれてしまい、通過障害を起こすことで疝痛となる病気です。

複数の診療所からの合同報告(2008年)によると、EFEに罹患した馬の48%にさく癖がみられたそうです。また、さく癖を呈する馬は、さく癖をしない馬の統計上72倍もEFEになりやすいと報告しています。EFEの偏向因子はほかにも年齢や、舎飼いなどあるため一概には言えませんが、無関係とはいいがたいと思います。

別の問題として、さく癖は、側頭骨舌骨関節症という病気の誘発因子であることが示唆されています。頭を振る動作や、ハミの装着を極端に嫌がる、などの症状がみられ、病気が進行すると顔面神経麻痺や、耳垂れ、平衡感覚の異常、斜頸、眼振などの症状を呈し、手術が必要となります。(この病気の詳細についてはまた別の機会に)

さく癖の意味

 そもそも、さく癖をして馬に良いことはあるのでしょうか。

22頭のさく癖をする馬(CB群)と、21頭のさく癖をしない馬(C群)を対象に行った研究があります。ストレス具合の評価として、唾液中のコルチゾールの値を用いています。ストレス時に増加するコルチゾールを分泌するACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を投与して、その時の反応を比較しました。

結果は、CB群はC群よりもコルチゾール値が高く、さらに、CB群のうち検査中にさく癖をしなかった群(B群)のコルチゾール値は、さく癖をした馬(A群)や、C群よりも優位に高い値を認めました。

  ≒  普段にさく癖をするけれども、検査中にさく癖をしなかった馬が一番ストレスを感じていた。

筆者らは、これらの結果から、さく癖は、馬が環境中のストレスから逃れるためにの戦略であり、無理矢理やめさせようと努力することは、適切な事ではないと結論付けています。

 同様の研究報告は、他にもあり、さく癖をする馬たちはストレスに対する感受性が高いと考察する研究者たちもいます。(ストレスを感じやすい)

 一方で、これらに差がないとする報告もあり、結論はでていません。

さく癖の予防法について

 さく癖が良いか悪いかは別にして、さく癖を予防する方法にはどのような対策があるでしょうか。基本的に、一度定着してしまったさく癖を矯正することは困難です。何かしらの根本的な原因があったとしても、行為自体が根付いてしまったあとでは原因が取り除かれたとしても、やめさせることは難しいでしょう。

物理的な予防法としては、

 さく癖ベルト(カラー) や 口カゴ も一つの方法です

手術で、首の筋肉を切断することで さく癖をできなくする方法もあります

; Forssell‘s法 : 胸骨甲状舌骨筋・肩甲舌骨筋・胸骨下顎筋を切断します。あわせて脊髄副神経を並行して切断する変法もありますが、その効果は一定ではありません。

 ですが、上述した通り、これらの方法で半ば強制的にさく癖をやめさせることは、さらにストレスを感じてしまう可能性があることがわかっていますので、難しい問題です。

 疝痛の予防を考慮するのであれば、食事中だけでもカラーをつけるなどの対応がリスクを減らしてくれるかもしれません。

 現在では、

・粗飼料を増やす・濃厚飼料を減らす

・採食時間が長くなる工夫をする(ヘイネットなど);暇な時間を与えない

・パドックのあちこちに草を置いて採食行動に変化を持たせる

・放牧時間を増やし他馬との交流を増やす

胃潰瘍とさく癖の関連性を証明した報告はありませんが、潜在的な胃の不快感を和らげるための措置をとることは価値があるかもしれません。

 ・アルファルファ乾草を与える ; カルシウムを多く含むため、胃酸を和らげる効果があります。

運動量が多く、エネルギー必要量が高い馬に対しては、脂肪や繊維が多く、デンプンや糖類の少ない飼料が良いとされています。ビートパルプなどが良いかもしれません。

暇な時間を与えないという目的では、おもちゃを与えるのもよい方法です。

転がしたら中からオヤツのでてくるようなもの、や ボール など、口で楽しめるようなものを試してみると良いかもしれません。特に、さく癖を始めたばかりの若馬であれば効果が期待できます。

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さいごに

さく癖は、決定的な原因があるわけではなく、複数の要因が絡み合っていると思われます。

常同行動ですから、馬が悪いわけではありません。

怒ったり調教してコントロールすることは適切ではありません。ストレスに感受性の高い馬が、ストレスから回避するために行っている可能性もありますので、ストレスを軽減する方向で対策を多角的に考えることが回数を減らすことにつながるかもしれません。

 一度定着してしまったら、やめさせようと努力し続けることよりも、ある程度許容することが大事かもしれないということも一つの方法だということを忘れないでください。