下痢の原因はひとつじゃない
仔馬の下痢は、育成現場でもよく見られる症状のひとつです。多くは感染症や寄生虫、環境ストレスなどが原因ですが、まれに「乳糖不耐症」が関与していることがあります。
この疾患は比較的稀ですが、「知っておくと役立つかもしれない」知識として、ここでご紹介します。

乳糖不耐症とは?
乳糖不耐症とは、乳糖(ラクトース)を分解する酵素「ラクターゼ」が不足または欠如している状態です。
ラクターゼは小腸の刷子縁で産生され、乳糖をグルコースとガラクトースに分解します。
ラクターゼ不足により、消化・吸収されなかった乳糖は、大腸へと流れてしまい、ガスが発生して疝痛を起こすことがあります。また、乳糖は腸管内に水分を引き込む性質があるため、下痢を引き起こします。

馬の乳糖不耐症は 2つに分類されます。
| 原因 | 特徴 | |
| 一次性(先天性) | 遺伝的にラクターゼがない | とても稀。報告例はない |
| 二次性(後天性) | 腸管の感染や炎症による刷子縁障害 | ロタウイルス・クロストリジオイデス・ロドコッカスなどが原因 |
症状
- 軽度の疝痛様行動(腹部を見たり、横になる)
- 成長不良、脱水、代謝性アシドーシス
- 抗菌薬や駆虫薬に反応しない慢性下痢
こうした症状が見られた場合、乳糖不耐症を「可能性のひとつ」として考慮することが診断の幅を広げます。
診断
離乳前の馬に、感染症治療後の長引く下痢などの症状がみられる場合や、上記の症状がみられる場合は、担当の獣医師に相談してみてください。
ラクターゼ酵素含有商品も診断的治療として使える可能性がありますが、国内では医薬品としての販売しかありません。国内からネットで購入できるサプリメントもあり、個人輸入が可能ですが、個人の責任となります。
・KAL ラクターゼエンザイム 250mg
・Nature’s Way ラクターゼ酵素 230mg
・NOW Foods ラクターゼ酵素
・Natural Factors ラクターゼ酵素 9000 FCC ALU
クウォーター種当歳馬における乳頭不耐性下痢(Lactose intolerance diarrhea in a Quarter-Horse Foal)
Rev Acad Cienc Anim. 2018;16 Ana Luisa Holanda de Albuquerque et.al
UNESP(サンパウロ州立大学)で報告されたこの症例では、3か月齢のQuarter Horseの仔馬が10日以上の下痢を呈し、抗菌薬や駆虫薬に反応せず、最終的に
ラクターゼ酵素(8 mg/kg)を4時間ごとに経口投与したところ、8時間以内に下痢が止まりました。
その後は12時間ごとの投与で正常便を維持し、離乳までラクターゼを継続使用。
このように、治療的診断としてラクターゼ投与を試すことが、診断と治療の両面で有効です。
乳糖不耐症は馬では稀ですが、治療抵抗性の慢性下痢に対する積極的な鑑別候補として位置づけるべきです。特に、感染性腸炎後の二次性ラクターゼ欠損は見逃されやすいため、以下のような診断手法が有効です。
治療的診断 (もっとも実用的)
ラクターゼ酵素を経口投与して、症状の改善を観察
- 投与量:8 mg/kg(例:50kgの仔馬に400 mg)
- 投与間隔:初期は4時間ごと、改善後は12時間ごとに調整
- 投与方法:液体または粉末をミルクやヨーグルトに混ぜて給与
- 反応:投与後8時間以内に便性状が改善すれば、乳糖不耐症の可能性が高い
ラクターゼ耐性試験
より確定的な診断を目指す場合は、以下の試験が有効です(Martens et al., 1985)
- 準備:4時間絶食、乳糖モノハイドレート(1 g/kg)を20%溶液にして経鼻胃管で投与
- 測定:投与前から5時間後まで、30分ごとに血糖値を測定 (3時間)
- 判定:正常なら60分前後で血糖値が上昇(2倍以上)。
- 上昇しない場合は乳糖吸収不良と判断
- Heyman(2006)の基準では、血糖値の最大上昇が1.4 mmol/L以下なら乳糖不耐症と診断されます。
医療用ラクターゼ含有製品
ガランターゼ散50%(ニプロESファーマ)
ミルラクト細粒50%(高田製薬)
仔馬が牛乳を飲めない理由
牛乳と馬乳の成分は全然違います

あれ?乳糖は馬の方が高いじゃん?? と思われるかもしれまん。
なぜ牛乳で下痢を起こすのか?乳糖量よりも「酵素活性」が鍵
1. 馬乳にはラクターゼ活性に適した乳糖構造がある
- 馬乳の乳糖はホエイ主体のたんぱく質構造とともに存在し、消化が穏やか
- 馬のラクターゼは馬乳に最適化された構造に対して活性が高い
2. 牛乳の乳糖は「異種」であり、分解しづらい
- 牛乳の乳糖はカゼイン主体の構造に包まれており、馬の小腸では分解効率が低い
- 馬のラクターゼは牛乳の乳糖に対して活性が低く、未消化のまま大腸に到達しやすい
3. 牛乳のカゼインが腸管に負担をかける
- 牛乳のカゼインは凝固性が高く、馬の腸管では消化に時間がかかる
- 腸管に炎症や感染があると、刷子縁のラクターゼ産生がさらに低下し、乳糖不耐症を誘発
最後に
当歳馬の下痢をみたときに、 発情下痢・ロタ・細菌感染症・ウイルス感染症 以外にも、まだまだ考えることがあります。
なかなか下痢が治らない仔馬がいたら、獣医師に相談してみてください。
Mahalo




