馬装が終わりました。さて頭絡を付けて……
皆さん、鼻革を締める強さについて考えたことはありますか?
これは、 国際馬術科学協会ISES(International Society for Equitation Science)が推奨している、鼻革の締め具合をチェックできる道具です。
鼻革と鼻梁の間にすべらせて使います。指1本分と指2本分のラインが引いてあって、指2本入るように調整します。
横のギザギザは、勒銜の太さをチェックするのに使えます。馬場馬術では、
大勒銜の銜身直径は12mm 以上、小勒銜の場合は10mm 以上、ヤングホース競技に使用する水勒は、直径14mm 以上でなければならない。との規定がありますので、そのチェックに用います。
裏には10cmの目安となるラインが引いてあり、馬場馬術で認められている下銜枝の長さをチェックするのに用います。これも規定たありますので、それを確認するために用います。
鼻革を締める強さは、馬にどのような影響を与えるのでしょうか
これまでの研究報告
いくつかの研究報告がありますが、鼻革を強く締めると
- 心拍数の増加
- 心拍数の変動の抑制
- 眼の温度の上昇
- 口周りの動きの抑制
などの変化が認められるそうです。
これらの変化は、馬の生理的ストレス反応を示唆していると報告されています。
ウィーン大学からは(2014)
10頭の馬において、『鼻革の締め付ける強さが騎乗に与える影響』に関する興味深い結果が発表されています。
鼻革を締め付ける強さを2群に分け、トレッドミル上で、馬の頭の位置を一定に保つ際のサイドレーンの強さについて測定しました。その結果によると、緩く鼻革を締めた(指2本入る程度)N-1群では、きつく締めたN-2群よりも、常歩および速歩時のサイドレーンにかかる力が有意に強くなりました。
すなわち、鼻革の締めつけ具合が、必要な手綱の張力に影響を与えることを意味しており、きつく鼻革を締めることでハミへのプレッシャーへの感度が高まるという結論になっています。
鼻革の締め付ける強さの調査
では、実際の競技ではどの程度の強さで鼻革が締められているのでしょうか?
2017年に、アイルランド・ベルギー・イギリスの3カ国ないで行われた馬術大会における鼻革の締め付け具合(きつさ・位置・鼻革の種類や太さ)などについて調査が行われています。
調査頭数 750頭 :
総合馬 354頭
馬場馬 334頭
ハンター競技馬 62頭
すべての調査は、競技の直前と直後に測定されました。締め付けの強さは、ISESテーパーゲージを使用して、6段階評価で行いました。
①指が全く入らない程度の締め付け
②指0.5本入るくらいの締め付け
③指1本入る程度の締め付け
④指1.5本入る程度の締め付け
⑤指2本入る程度の締め付け
⑥指2本以上入る程度の締め付け
驚きの結果
なんと、全体の44%の馬で、指が全く入らない程のきつさで鼻革が締められていました。
鼻革の種類は、Flush noseband型(コンビ鼻革ともいわれる)が最も多く用いられ、Cavesson(一番オーソドックスな鼻革:フランス鼻革ともいわれる)、Drop (ハミよりも先の方で鼻革を締めるタイプ:ドイツ鼻革ともいわれる)、Micklem(図のような鼻革)よりも有意にきつく締められていました。
200頭で実施された別の調査発表でも、指が2本入る程度の締め付けであったものは僅か12%でした。
捕捉ですが、クランク型の鼻革は、より軽い力で過剰ともいえる圧力で締め付けることが可能ですので、注意が必要です。
締め付けの圧力について
Dohertyらは、鼻革の下の骨や軟部組織に沿った様々な場所に圧力センサーを取り付けて、締め付けによる圧力を測定しました。死体の頭部を用いたことで、各部位にかかる圧力がどう変化するかについて、詳細に調査が可能でした。
馬の顔の骨は特徴的な形態をしていて、鼻の骨(鼻梁の正面)の両脇は軟部組織であり、さらに骨の幅は数cmと幅が狭いので、鼻の骨に一番強い圧力がかかることが確認されました。
鼻革の下を輪切りにしたと想像してください。馬の頭の断面はまん丸ではありません。曲率半径が小さくなることで圧力が小さな領域(鼻骨あたり)に集中することは、自然なことです。
さらに、指1本分から0本分の締め付けになると、圧力レベルは指数関数的に増加しました。これは、ある程度の圧力に対して変化できる軟部組織の圧縮が最大となったため、それ以上の圧力に耐えられなくなったためと考えられます。
1.5本の指が入る程度の強さの締め付け具合は、人間のほとんどの人が耐えられないレベルの強さに相当するそうです。それは、人間の手足の血流を止めるための止血体で感じる圧力の約3倍に相当します。
0本では、人の止血バンドの10倍に相当する圧力だそうです。
馬が競技や運動において、駈足や飛越をする際には、その動きや振動に伴い、局所の圧力はさらに高まります。
圧力が与える影響
このような実態の調査が行われ、ISESからは、鼻革の締め過ぎによる過剰な圧をかけないようなアドバイスがなされていますが、浸透には至っていません。
実際には、鼻革がその下の組織に与える生理的影響については、まだ明らかなデータがありません。
ヒトでは、50mmHgの強さで2時間圧迫すると、神経細胞の損傷が認められ、その後の神経電動や筋機能の損傷が報告されています。
馬の鼻革の締め付けは、いくつかの顔の筋肉・血管・顔面神経などに損傷をおよぼし、ヘッドシェイキングにつながる可能性も憂慮されています。
明確な科学的根拠が確立するまでの間、各国の対応は若干異なりますが、日本では今年の3月より
チーク部分と鼻革の間に指を1本入れる確認方法に統一します。
日本馬術連盟 馬場馬術競技会における注意事項 より
となったようです。これからもまた変更があるかもしれませんので要注意ですね。
競技の負荷や、安全性、考えることは沢山ありますが 大事な言葉を一つ
Any practices which could cause physical or mental suffering, in or out of competition, will not be tolerated.(競技かどうかに関わらず、肉体的・精神的苦痛を招く可能性のあるあらゆる行為は認められない)
国際馬術連盟FEI(Federation Equestre Internationale) ;馬の福祉のための行動規範 より
馬も人もハッピーに。。。
明日、
あなたの愛馬の鼻革を締めるとき、
ちょっとだけ この記事を思い出してみてください。
穴が一つずれるかも。。。。
Mahalo