好んで砂を食べる馬は見たことがありませんが、雨の後の放牧地や、パドックで落ちている餌を食べるとき、馬が砂を食べるところを見て心配になった方いませんか?
当然自然界においても同様のことが起きますが、それが疝痛などの病気につながることがあります。
アメリカでは、カリフォルニア州、フロリダ州・ミシガン州での発生が多くみられますが、日本では、砂疝で開腹手術になった話はあまり聞きません。(各所の先生方、沢山の経験をお持ちの方がいたら教えてください)
リスクファクター
砂を摂取しやすい状況が一番問題です
- 乾草を地面(砂地)地面に置いて与える(投げ草)
- 砂の多い土壌の放牧地での放牧
- 飼槽にいれた飼い葉を まき散らしたり、こぼしたりして、それを食べる
などが、よく指摘される状況です。
砂地への放牧や地面からの食餌によって、馬の腸管内には砂が少しずつ蓄積してしまう可能性があります。
砂地に生えている草を根から引き抜き、根に付着した砂を食べてしまうこともあります。
飼槽に入れて餌を与えていても、地面にこぼれた飼料を食べることで摂取することもあります。
北海道では、冬季に凍結防止剤として、塩化カルシウムを撒くことがあります。
運動制限している馬が放されていたサンシャインパドックに塩化カルシウムを撒いてしまい、塩と一緒に砂を舐めて摂取して疝痛になった馬もいました。(手術して無事になおりました)
症状
疝痛(砂疝;させん)、慢性の下痢、プアパフォーマンス などが主な症状です
バナミン投与で治まる程度のものが多いですが、時には痛みが治まらず手術することもあります。
病態の経過中に、蹄葉炎の併発や、大腸の壁が破れることで腹膜炎を起こして急速に死に至ることもあります。
通常は、少量摂取された砂は、エサとともに消化管内を移動してボロと一緒に排出されます。
ですが、砂は重いのですこしずつ結腸の中に蓄積してしまいます。
また、砂が運ばれる過程においては、腸管の柔らかい内側の粘膜を刺激してしまうことがあります。
さらに、重さのために腸管の蠕動(ぜんどう;食物などの内容物を送る運動)が妨げられてしまいます。これらの刺激によって、下痢や疝痛、消化機能の低下などを引き起こす危険性があります。
最悪の場合、腸閉塞・結腸捻転・結腸の変位などの状態となって開腹手術が必要となります。
開腹手術にて消化管内の砂の混入を認めた48頭中、26頭(54%)で結腸の変位・捻転が認められた報告もあります。砂の摂取とこれらの疾患に、強い関連性が認められています。
診断
蓄積した砂は、急に症状を出すこともあれば、そうでないこともあります。
診断は、経過の聴取・直腸検査・レントゲン検査・エコー検査で総合的に行います。
検査の3~8週間前に砂地への接触があった際には、砂疝を考慮する必要があります。
聴診では、剣状突起のすぐ後ろあたりで、砂が流れるような音がすることもあります。
直腸検査では、盲腸や結腸の気腸を触ることが多いとされています。
レントゲンではこのように、おなかの下に沈んだ砂をみることがありますが(白い部分)、これが全て疝痛などの症状と関連性があるのかはわからないところが難しいところです。。。
☆ 砂疝の馬に対する X 線の診断的有用性を評価するために行われたある研究報告では、
・馬の腹部 X 線写真検査 51 例を検討(約半数が砂疝痛の臨床診断)において
- 4 名の獣医師がそれぞれ X 線写真を観察し主観的に画像診断
- 砂の堆積の量と密度について1~12点の客観的スコアリングシステムで評価
結果
・主観的採点法による観察者間・観察者内の結果は、すべての観察者間で有意差があった。
➡ 主観的評価は疝痛の予測には不正確である
・客観的採点法では、観察者間、観察者内ともに有意差はなく、12 点中 7 点が砂疝痛の陽性診断に関連する可能性が 83%であった。
と結論付けられています。
日常管理で気を付けること
発症のリスク要因を考えると、餌の与え方や、放牧の仕方などに注意が必要なことは当然です。
足場に直接に投げ草をしない ・ ラバーマットなどのうえで与える・ 飼槽を使う
などで、摂取量を減らすことができるかもしれません。
粗飼料の給餌量を増やすことは、砂をボロと一緒に排出させてくれる効果があるので、推奨されています。
愛馬のチェック方法として
愛馬の砂の摂取が気になる場合、このような方法はいかがでしょうか?
グローブテスト
- 新鮮な 4~5個のボロを採取
- 袖の長い手袋(直検手袋がよい)にボロをいれる (or ボロを掴んでうらがえす)
- 適当量の水をいれて撹拌する
- 数分間ぶら下げて放置
ボロの中に砂が混じっている場合、その重さがあるので指先に砂が沈殿します。
判定について
お腹の中に砂が蓄積している馬のボロに、必ず検査したタイミングで砂が混ざるわけではありませんので、‘陰性’の判定は注意が必要です。
砂の多い環境に住む健康な馬のボロには、通常、少量の砂が含まれています。
ただし、馬のボロに砂が混じっているのは警告サインです。馬の糞便に少量の砂を見つけ、馬が腹痛や下痢を起こしている場合は、砂の関連性を疑う必要がでてきます。
かなりの量の砂が底に沈んでいたり、数回の検査で一貫して砂を認めた場合、大腸の中には相当量の砂があると考えるのが妥当です。
このような時は、担当の獣医師に相談してみてください。
治療法
すでに書いたように、結腸の捻転や変位をおこして痛みの酷い状況では、手術が必要となることがあります。ですが、診断がされた多くの馬はまず内科的に治療されます。
胃カテーテルで水を何度も飲ませて、すこしずつ砂を洗い流す方法もあります。
水和を目的に、口(鼻)からだけでなく持続点滴を行うこともあります。
サイリウムは、最も一般的に初めに選択されるもので、水溶性食物繊維を多く含む粉です。
水を含むとゼラチン状になる性質があり、砂を排出する助けになると言われています。
ただし、サイリウムには砂排出促進効果がない と結論付けている研究もあります。サイリウムで効果がみられなかった馬には、硫酸マグネシウムや流動パラフィンなどをのませたり、これらを混ぜて与えることで排出量が増えると言われています。
さいごに
定期的に下剤などを与えて砂の排出を促す方法もありますが、適切な管理によって砂の摂取量を減らすことの代用にはなりません。まずは、摂取量を減らすことが第一です。
一度、管理馬のボロの検査をやってみて、飼養管理方法をもう一度チェックしてみてはいかがでしょうか?
もしかしたら、数か月後に起こる疝痛を予防することにつながるかもしれません。
Mahalo