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『タチバレ』について

 馬を馬房から出そうとしたら『アレ?後ろ肢が腫れてる?』気になったことありませんか?

そして『タチバレ』だから大丈夫だよ。 って言われたことはありませんか?

そもそも『タチバレ』ってなんでしょう。そして本当に大丈夫なのでしょうか。

『肢が腫れた』シリーズ第一弾。 タチバレ について。

 

症状

極めて典型的なタチバレは

両後肢(前肢もある)におきる、跛行なし(多少の動きづらさのあることもある)、運動をすると腫れが引く、

蹄冠から飛節の下の間でおきる、発熱(体温の上昇)がない、触っても痛みがない、食欲や元気は正常

腫れた部分(管の外側など)を、指の腹で押してみてください。窪みができるかどうかを確認します。よほど強く推さない限り、馬は痛みを示さず、窪みは30~60秒すれば元に戻ります。

逆に、 

明らかに跛行している ・ 発熱している などの症状がある場合は、治療が必要な疾患の可能性があります。

病態と原因

タチバレの原因を理解するためには、『リンパ』を理解する必要があります。

リンパ管の構造

『血管』は血液が流れる管ですが、『リンパ管』はリンパ液が流れる管です。血液は心臓からでて、動脈を進みます。動脈はだんだんと別れながら徐々に細くなり、毛細血管となって組織に栄養や酸素を与えます。そして、細い静脈として徐々に集まってきて太い静脈になり心臓に戻ります。一方、リンパ管は毛細リンパ管として末梢から始まります。毛細リンパ管は集合リンパ管、主幹リンパ管と集まりながらどんどん太くなり、最後に静脈に合流します。血管よりも壁が薄いので、大きな分子のたんぱく質や病原体など血管に入らないものも運べます。

リンパ管を流れるリンパ液の主成分は血液中の『血漿(けっしょう)』です。動脈血が毛細血管周囲で、血管から漏れ出た液を『組織液(≒血漿)』といいます。生体の細胞は、この組織液に浸された状態で常にバランスをとっています。この組織液を回収するのがリンパ管のひとつの役割です。

このようなリンパの流れを リンパ系 と呼び、組織液を運ぶ以外にも、免疫機能・吸収した脂肪の搬送・老廃物のろ過など、様々な役割を担っています。

 この組織液が、正常な状態よりも溜まった状態が ”むくみ・タチバレ” です。 

では、どのような時に組織液が増えてしまうのでしょう

リンパ管には、血液における心臓のような大きな流れを作る役割をする臓器がありません。主にリンパ管周囲の筋肉・靱帯の収縮による圧力で流れていると言われてきました。また、蹄の『蹠枕(せきちん)』と呼ばれる蹄踵にあるクッション構造が、歩くたびにリンパ管や静脈を圧迫することでポンプのような作用をしてくれています。

つまり、タチバレは、ほとんどの場合は、運動量が少ないことで、リンパ系の流れが鈍って組織液が溜った状態といえます。

ここまで読まれた方は、お分かりになると思います。

そうです、 タチバレは大した問題ではないのです。 

治療

 通常は、10~15分の軽い運動で解消されます。

心拍数をあげ、腱や靱帯を動かし、蹄にクッションの役割を与えることで、改善します。

もし、馬が運動を嫌がったり、何かしらの理由で運動させられない場合、追加の治療を行うこともできます。

1 水冷

 運動をしてもひかない場合、冷水を15分ほどかけて肢を冷やすことが有効なこともあります。可能であれば、冷水と温水を数分おきに交互にかけてあげることが効果的です。

2 ICE COMPRESSION BOOTS

 冷やしながら、肢を圧迫することも有効です。いろんな製品がありますが、個人的に使用経験があって効果を感じたものは、 Ice-Vibe です。

3 包帯

 圧迫包帯も効果があります。包帯は12時間ほど巻いて、12時間ほど外すを繰り返すと良いでしょう。

 腫れをひかせたいために、あまり強く巻くことは他の問題を引き起こす可能性があるので気を付けましょう。

4 マッサージ 

 馬が嫌がらないのであれば、マッサージをしてあげるのも効果的です。皮膚温度が上昇し、局所の血流も改善されます。

対策

 タチバレ を起こしやすい馬もいれば、あまり起こさない馬もいます。 なりやすい馬は、一般的に頻繁になってしまいます。

 脱水状態の馬、高齢な馬、過去にフレグモーネやリンパ管炎などに罹患した履歴がありその際にリンパ管に大きな損傷があった馬 

などは、起こしやすいと言えます。

 脱水もタチバレの要因のひとつです。 馬たちが常に清潔で新鮮な水と塩分を摂取できるようにしましょう。

 装蹄も工夫することが可能です。馬によっては、蹄底や蹄叉をサポートすることで、これらの構造と地面との接触が増えて、リンパの流れを改善させることができることもあります。

 あまりに慢性的な場合は、アレルギーが関与していることも考えられます。馬房の敷料を変えてみる、換気をよくする、乾草を水に浸して埃を減らす などの工夫をしてみることも対策のひとつになるかもしれません。

まとめ

タチバレ

1. 両側性で後肢に起きることが多いが、前肢や四肢全部にでることもある

2. 肢がパイプのように腫れること以外は正常。 肢の熱感はない。

3. 運動不足によるリンパ液の流れが悪くなることが多くの原因

4. 一般的にはあまり心配しなくても良い

 今回は、『肢が腫れた』シリーズ第一弾。 たちばれ でした。

Mahalo