
急性腹症時の超音波検査シリーズ Part-Ⅲ 結腸の血管について
超音波検査は一度に描出できる範囲が狭いため、局所の構造的変化を捉えるのに適していますが、構造物の全体的配置を把握するには慣れが必要です。
馬の大腸はとても大きく、盲腸が約30ℓ、結腸が約80ℓもあり、腹腔内の大部分を占めています。
結腸捻転や結腸変位を超音波で診断するためには、いくつかの特徴的な所見をとらえることが必要です。
結腸捻転であれば、捻転した結腸の 『結腸壁の肥厚像を捉える+痛み』 で診断します。
結腸の変位では、結腸壁に変化がでることはあまりありません。痛みは、間歇的・軽度~重度まで様々です。
これらを診断し治療するために、結腸の血管の走行を捉えることがとても役に立ちます。

結腸の血管走行
結腸の血管分布は 前腸管膜動脈から分枝した『右結腸動脈』と『回結腸動脈・結腸枝』になります。

右結腸動脈は、左右の背側結腸の内側に沿って結腸間膜を走行します。
回結腸動脈の結腸枝は、左右の腹側結腸の内側に沿って結腸間膜を走行します。
これらの血管は結腸走行に従うため、結腸の血管がみえたときは、エコーで血管走行を追いかけることで、結腸の位置や走行をイメージすることができます。
結腸の変位
結腸は腹腔内で固定されていないため、便秘や異常発酵で発生したガスなどによって位置が変わることがあります。この『変位』は、痛みの程度は様々ですが、疝痛を引き起こすことがあります。
主な結腸の変位には、
右背方変位 と 左背方変位 があげられます。
右背方変位には3つのパターンがあります。

これらは馬の背側からみた図で、上が頭側、右が馬の右側、左が馬の左側です。
一番多いのは、左の図の『屈曲を伴う結腸右背方変位』です。
このタイプに結腸捻転が加わると、一番右の図の『屈曲と捻転を伴う結腸右背方変位』になります。腹側結腸と背側結腸の位置関係が上下逆になっているのがわかります。
また、珍しい変位の仕方として図中央の『内方屈折を伴う結腸右背方変位』があります。
いずれのタイプ変位でも、盲腸と右腹壁との間を結腸が通過していることがポイント
左背方変位は、腎脾間膜エントラップメントと呼ばれる疾患です。この診断にも血管走行の把握が診断の役に立つことがあります。
結腸血管がみえることと変位の関係について
結腸の血管と右背方変位の関係性を調査した報告があります。
Ultrasonographic visualization of colonic mesenteric vasculature as an indicator of large colon right dorsal displacement or 180° volvulus (or both) in horses
SallyAnne L. Ness, Fairfield T. Bain, Alanna J. Zantingh, Earl M. Gaughan, Melinda R. Story, Daryl V. Nydam, and Thomas J. Divers
Can Vet J. 2012 Apr; 53(4): 378–382.
アメリカコロラド州、デンバーにあるLittleton Equine Medical Centerで、2008年から2009年までの間に開腹手術をされた馬を対象に調査されました。
陽性的中率 95%
腹部右側にて結腸動脈が観察された場合、右背方変位 or 180°結腸捻転(またはその両方)の存在する可能性は極めて高く、95%でした。
陰性的中率 81%
右背方変位 or 180°結腸捻転(またはその両方)であっても、19%の馬では、腹部右側にて結腸動脈が観察されない可能性がありました。
超音波検査は大腸の右背方変位または180°結腸捻転(あるいはその両方)の検出に対して、高い特異性と中程度の感度を有する検査法である。

『屈曲を伴う結腸右背方変位』を、右側からみたイメージ図です。結腸が血管の走行する面(内側)を体壁(右)にして走行していることがわかります。
血管のエコー像
捻転などによって肥厚した状態でなければ、腹側結腸は嚢状のふくらみを認めるので、識別可能です。結腸の血管は、結腸壁に隣接・走行する2つの低エコー円形構造として描出されます。


この症例は、手で示した範囲で結腸動脈がみえました。開腹手術をしていないので、結腸の変位であったかどうか、正確にはわかりませんが、絶食・持続点滴をおこない、間歇的な軽い疝痛に対して鎮痛剤を使用して経過を観察することで治癒した症例です。
治療

捻転を伴った変位でなければ、通常は激しい痛みを示すことは多くありません。間歇的であったり、軽度の痛みが持続したりします。
直腸検査で、結腸の異常走行を蝕知できることもあります。
疼痛がコントロールできない場合や、経過が長い症例、全身状態が悪化傾向にある症例に関しては開腹手術の適応となります。
そうでない症例では、絶食させて持続点滴と飲水のみで管理します。便秘を伴う症例に対して下剤を使うこともありますが、急激に腸管内容の重量が増すことで痛みが激しくなったり、捻転して手術しなければならなくなることもあります。ですから、便秘を伴う症例には、胃カテーテルから頻回に水を投与する方法を行っています。
絶食・曳き運動・持続点滴・胃カテ・疼痛コントロール・直腸検査・排便確認しながら、時間をかけて治しましょう。
Mahalo