以前、馬の心臓がいかに素晴らしい構造をしていて、激しい運動に耐えうるかについて説明しました。
今回は、そんな馬の心臓の検査方法について簡単にご紹介しましょう
馬の心臓病の検査方法
運動をするうえで、心臓が正常に働く事はとても大切です。
馬の獣医師たちはどのような方法で、心臓の検査を行うのでしょうか?
人や小動物では、 聴診 ・ 胸部レントゲン検査 ・ 心電図検査 ・エコー検査 が最も大切な検査になります。 その他、血液検査・ 造影検査 ・ CT検査(血管MDCTや冠動脈CTなど)も行います。
残念ながら、馬ではその大きさ故に 胸部レントゲン検査 や CT検査 による循環器検査は一般的ではありません。 (仔馬ではレントゲンを撮影することもあります)
ですが、大きいが故に 有利なこともあります。 それが 聴診 です。
その他には、心電図検査 や エコー検査 がメインの検査になります。
馬関係者の方であれば、牧場に 聴診器 の1本くらい ありませんか?
先日、とある牧場の一般の方に、 『心臓の音が悪い馬がいる』 とお聞きしてびっくりしました‼
なんとすばらしい。今度是非検査させていただきたい。
馬の心臓の聴診方法
心室が収縮と拡張を繰り返して血液を送り出す際、心臓内の弁が開いたり閉じたりを繰り返します。この収縮期と拡張期の境目に、弁が動いて血液の流れが急変することで発生する音が心音です。
馬は大きいので、心臓の中の4つの弁から出る音を聴き分けることができます。
(➡聴き分けなければいけません!!)
最初に、馬の左側の一番大きく音の聴こえる部位(手で触って一番強く拍動を感じる部位)に聴診器をあてます。そこが僧帽弁の位置(僧帽弁領域)です。
そこから上へ移動させて大動脈弁領域、前へ移動させれば肺動脈弁領域があります。
最後に、馬の右側から音が一番強く聞こえる三尖弁領域を聴診します。(右からしか聴こえません)
日本では、心臓の音は 『どっくん / どっくん』 って表現しますが
英語では 『Lub Dub ; ラブ・ダブ / ラブ・ダブ』 と表現します。
数年前に海外の先生に 日本語での音の表現を教えたら いいね! って喜んでました。
正常で聴こえる この心音。
ドッ は Ⅰ音(いちおん)、クン は Ⅱ音(におん)と言います。
聴診器の音を少しずらすと、 Ⅱ音の後に 小さな Ⅲ音(さんおん) と Ⅳ音(よんおん) も聴こえることがあります。
それぞれの音は (厳密な意味からは少しズレますが。。。)
Ⅰ音 : 心室が収縮する時に房室弁(僧帽弁と三尖弁)が閉じ、血流が突然遮断される音。収縮期の始まり
Ⅱ音 : 心室が拡張する時に動脈弁(大動脈弁・肺動脈弁)が閉じる音。
Ⅲ音 : 拡張早期に心房から勢いよく流入した血液が、心室壁を振動させる音
Ⅳ音 : 心房収縮時の血液流入に伴う衝突音
を意味しています。
獣医師は、これらを聴診する際に
・心拍数が正常かどうか
・不整脈がないかどうか
・心雑音がないかどうか をチェックしています。
馬の心音
正常なリズムの心音が乱れることを 不整脈 といいます。
馬で最も一般的な不整脈は、 『2度房室(ぼうしつ)ブロック』 と呼ばれるものです。
聴診すると 『ドックン ・ ドックン ・ ドッ ……・ ドックン ・ ドックン』
※ 真ん中の ドッ の時に 心室が収縮していない状態です。
この不整脈は、3回に1回 あるいは 4回に1回 という規則性を持っています。(不規則性が規則的)
心室が収縮しないんだからタイヘン💦と思われるかもしれませんが、運動によって心拍数が上昇すると、通常は消失します。
馬は、もともと安静時に迷走神経がとても発達した動物ですから、この房室ブロックは病気(異常)ではないとされています。
運動をして交感神経が優位になると、心拍数が増えると同時に 房室ブロック もなくなります。
弁の機能不全や心奇形などの際に、正常とは異なる心音が聴こえることがあります。これを心雑音といいます。
通常はよどみなく心臓の中を流れている血液が、何かしらの原因で急激な流速変化をおこし、乱流を生じるために発生します。
Ⅰ音やⅡ音の間、あるいはⅡ音と次のⅠ音の間で「ザー」と聴こえます。
心雑音を評価するために、タイミング、最も大きく聴こえる部位、音質、大きさなどを記録します。一般的に、心雑音の大きさと心疾患の重篤度には相関性が無いことが分かっていますが、その変化を捕らえるためにも、決まった方法で記録することが大切です。心雑音の大きさを記録する際は、Levine分類(6段階評価)がよく用いられます。
高齢馬で最も一般的にみられる心臓の病気である 大動脈閉鎖不全症 では、 拡張期に大動脈から左心室に向けて血液が逆流します。(大動脈弁から漏れ出る)
その漏れ出た逆流(≒乱流)が、心雑音として聴こえます。
つまり Ⅱ音 の後に ザー あるいは ブー などの異常な音が聴こえます。
とはいえ、全ての心雑音が循環器疾患や心臓の異常を意味しているわけではありません。多くの馬は、生理的(≒異常ではない)心雑音を有しています。
たとえば、多くの生後2ヵ月齢未満の当歳馬では、血管の成長(太さ)が未熟なために心雑音を聴取できます。
疝痛・運動・緊張・興奮によって血液の流れが速くなった状態や、脱水によって血液がベトベトした状態、あるいはトレーニングによって大きくなった心臓でも、心雑音が聴こえることがあります。
大切なことは、心雑音の原因が異常かどうか(生理的なものかそうでないか)を判断することです。
生理的心雑音は、LevineⅢ以下であることが多でしょう。ですが、その判断は症状がない限り簡単ではないため、さらなる検査が推奨されます。
そこで最も重要な検査が、心エコー検査です。心エコー検査は、心臓の大きさや形、弁の形状、動きの評価、そして血液の流れをリアルタイムに解析することが可能です。
診断書や紹介状を書く、経過を伝える。
そんな時は、正確に必要な情報が分かるように伝えられるようになりましょう。
次回は、心電図や心エコー検査についてご説明いたします。
Mahalo