獣医療

馬の潜在精巣   (せんざいせいそう)

 正常なオス馬の精巣は、右と左の2つが陰嚢(いんのう)内にあるはずですが、発生の段階ではもともとはお腹の中にあるものです。 それらは、成長とともに下降(おなかの中から陰嚢内へと降りてくる)します。これが、通常であれば生後1~3週間でおきます。ですが、この頃の陰嚢は小さく、精巣も小さいので外から見てもそれほどはっきりわからないこともあります。 

その後、精巣が生後11か月ごろから発育します。馬の精巣は、なぜか左のほうが右よりもはやく成熟する傾向にあります。生後18カ月くらいまでは、潜在精巣のように見えても異常でない可能性があるので、気にする必要はありません。概ね2歳にもなれば、ほとんどの馬は外からみても、精巣を2個見つけることができるでしょう。2歳になっても精巣がわからない場合は、獣医師に診てもらってください。

潜在精巣が、

どのような病気で、

どのような危険性があって、

どのような治療法があるのか紹介します。

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正解は、②の 熊 でした🐻 正解された方、おめでとう🎊

『くじら・マナティ』 は、泳ぐ際の水の抵抗を減らすため?  と言われています。

海洋生物ではこのほかに アザラシ・イルカ・ジュゴン などもお腹の中に精巣があります。

精巣は熱に弱い臓器です。

象は、以前に『外が暑いから(=陰嚢にあっても精巣を冷やせない)』と教えてもらったような気がしますが、耳から熱を放射しているのだから、違うんでしょうね。。。

象の精巣は特別で、熱ストレス時に発現する特別なたんぱくしつ=『熱ショックたんぱく質(HSP90)』が誘導されることで、お腹の中の精巣を熱ストレスから守り、正常な精巣の機能を保護しているのではないかと思われています。

話は馬に戻りますが、成熟した馬の精巣の大きさは、1つ200~300gもあります。多くの動物は、陰嚢内で精巣は縦位(たてなが)にありますが、馬は横位(よこほうこう)になっています。

左(803図)牛    右(804図)馬

潜在精巣とは

 潜在精巣とは、この精巣が、片方あるいは両方とも陰嚢内に降りてきておらず、お腹の中や鼠径部に留まった状態のことを言います。馬での発生率は他の動物よりもやや高く、仔馬の約3〜4%が潜在精巣で、

クォーターホース、

ペルシュロン、

アメリカンサドルブレッドなどの品種で 発生率が高いと言われています。

原因は、遺伝性であると考えられていますが、遺伝性、ホルモン性、機械的な原因、それらの混合、などで起こるとされています。

 正常な精巣は、精子や雄性ホルモンを作る機能を持っていますが、熱に弱い性質があります。おなかの中の体温は、体表よりも高いために少しでも精巣の温度をさげる目的で陰嚢内へ下降させています。

ですから、精巣が腹腔内へとどまっていると、精巣の生殖能力が低下する可能性が高まります。

陰嚢に降りてきていない精巣は、お腹の中(腹腔:ふくくう)にある場合や鼠径(そけい:おなかと陰嚢の間)に位置することがありますが、右の精巣は鼠径部に、左の精巣は腹腔に停留することが多い特徴があります。

片方の睾丸が完全にない単精巣症の馬も稀にいます。

診断

まずは外貌や触診でおこないます。2歳を過ぎても睾丸が触れない馬は、潜在精巣の可能性が高いと言えます。

ですが、皮膚の下や鼠径部にある場合、慎重にさわるとわかることがあります。

そのような場合、精巣は発達が悪いことが多く、正常のものよりもかなり小さくなっています。

検査を行う獣医師は、やや深めの鎮静処置をおこなって、馬をリラックスさせた状態で触ります。必要に応じてエコー検査を行うことで、触ったかたまりが精巣かどうかを判断することもできます。

潜在精巣は片側性のことがほとんどですが、降りてきている精巣が右か左かは  よーく 診て、触らないと間違います。馬の右からも、左からもよく観察して、精索を手繰って確認することがポイントです。

意外と左右を間違われてくることが少なくありません。

片方を去勢することにはあまり意味がありませんので、二次診療所に手術を依頼するのであれば、去勢しないで運んだ方が賢明です。

すでに片方が去勢された状態、あるいは 購入前の手術歴などがわからない場合は、血液検査でホルモンを測定します。それによって、精巣がまだ体内にあるかどうかを判断することができます。

測定するホルモンは、テストステロン・hCG不可試験・抗ミュー管ホルモン(AMH)などです。 

手術の必要性について

潜在精巣は、正常の精巣よりもかなり小さいことがほとんどです。

ですが、雄性ホルモン(テストステロン)をつくることは可能であることが多く、『雄っ気』が抜けないことがあります。 種馬として繋養する機会は少ないでしょうから、乗馬にするのであれば この雄っ気 の方が問題だと思われます。

また、犬やほかの動物では、潜在精巣は腫瘍化しやすい特徴(癌になりやすい)があります。

馬では、雄の馬が高齢になるまで去勢されずに繋養されることが少ないこともあって報告は多くないですが、同様に腫瘍化するリスクが高まります。

遺伝性の疾患でもありますから、手術をお勧めします。(停留精巣のみ摘出して、正常な精巣を残すことはお勧めできません)

治療

潜在精巣が腹腔内にある場合、全身麻酔で開腹手術を行い、腹腔内の精巣を摘出する方法と、立ったままで腹腔鏡を用いて手術することも可能です。

社台ホースクリニックでは 立位腹腔鏡(ふくくうきょう)視下 潜在精巣摘出手術 の症例経験が多数あります。腹腔鏡手術は、お腹を大きく切らずに、小さな切開をして行う手術で、潜在精巣の摘出は通常立ったまま行います。馬への負担がとても少ない手術です。

ご相談ください。 (※費用もそれほど高くないですよ)

手術はたったまま
切る場所は小さく3個所だけ
腹腔鏡でお腹の中に停留している精巣をみたところ

手術時の腹腔鏡の動画リンクを載せます。 ご興味のある方はどうぞ。

腹腔鏡手術では、特殊な器具や操作が必要となりますが、これもその一つ。腹腔鏡を行う外科医が最も一般的に行う糸縛り方法で ”Roeder Knot” ローダーノット といいます。

結紮部位を奥にスライドさせて、締める方法です。

手が入らない場所で結紮するときに便利です。

気になる馬がいたらご連絡を。。

Mahalo