デクスメデトミジンは新しい薬ではありませんが、馬の全身麻酔、とくに全身状態の悪い馬の麻酔管理における使い方については、まだ発展途上のテーマです。
馬の麻酔は、ただ眠らせればよいというものではありません。
特に、疝痛などで全身状態が悪くなっている馬では、
麻酔中に【血圧】【循環】【腎臓】の働きが不安定になることがあります。
今回は
エンドトキシン血症の状態にある馬に対して、デクスメデトミジンという薬を麻酔中に持続投与したらどうなるかを調べた、とても興味深い研究です。
紹介する論文は、2026年に Equine Veterinary Journal にEarly Viewとして掲載された
“Dexmedetomidine infusions improve cardiovascular and renal function in anaesthetised, experimentally endotoxaemic horses.”
という論文です。
エンドトキシン血症とは?
エンドトキシンとは、主にグラム陰性菌の細胞壁に含まれる成分です。
馬では、重度の疝痛や腸炎、敗血症などに関連して、血液中にエンドトキシンが入り、全身性の炎症反応を起こすことがあります。
この状態では、循環が不安定になったり、血圧が下がったり、腎臓などの臓器に負担がかかったりします。
つまり、「麻酔をかけるだけでもリスクが高い状態」です。
馬の全身麻酔の危険率は他の動物よりも高いですが、近年は改善されてきています。
ただし、疝痛馬に関しては依然として健康な馬よりも高い致死率が報告されています。

研究では何をしたのか?
この研究では、健康な馬10頭に対して、実験的にエンドトキシンである Escherichia coli O55:B5由来LPSを0.1 μg/kg 静脈内投与し、その直後に全身麻酔を行いました。
馬は2つの群に分けられました。
対照群 :前投与:キシラジン、導入:ケタミン、ミダゾラム、維持:セボフルラン
使用群 :前投与:デクスメデトミジン、導入:ケタミン、ミダゾラム、 維持:セボフルラン + デクスメデトミジンを 1.75 μg/kg/hr CRI
測定項目~
心係数、酸塩基平衡、炎症性サイトカイン、クレアチニン
結果:心臓と腎臓に良い影響がみられた
デクスメデトミジンを投与した群では、麻酔開始後30分と60分の時点で、心係数が対照群より高く保たれていました。
つまり、心臓から全身へ送り出される血液量が、より良く維持されていたと考えられます。
さらに興味深いのは腎臓への影響です。
対照群では、麻酔開始後90分以降にクレアチニン(腎臓の機能の指標)が上昇しました。
一方で、デクスメデトミジン群では、180分間を通してクレアチニンは正常範囲に保たれていました。
これは、麻酔中の循環状態や腎血流の維持に、デクスメデトミジンが何らかの良い影響を与えた可能性を示しています。
炎症を直接抑えたわけではない?
一方で、炎症性サイトカインの濃度には、両群で大きな差は認められませんでした。
つまり、この研究でみられた良い効果は、炎症そのものを強く抑えたというよりも、
麻酔中の循環や腎機能を守る方向に働いた可能性が考えられます。
この研究の意義
デクスメデトミジンは、鎮静薬として知られるα2作動薬の一つです。
国内の馬の臨床でつかわれる、キシラジン、メデトミジン、デトミジンなどと同じ系統の薬です。
しかし今回の研究では、単なる鎮静薬としてではなく、
「麻酔中の循環・腎臓保護に関わる可能性のある薬」
としてデクスメデトミジンが扱われています。
特に馬では、疝痛手術のように、すでに全身状態が悪い状態で麻酔をかけなければならない場面があります。
そのような状況で、麻酔薬の選択や組み合わせが、循環や腎機能にどのような影響を与えるのかは、非常に重要なテーマです。
臨床でそのまま使えるわけではない
注意すべき点もあります。
この研究は、健康な馬に実験的にエンドトキシンを投与して行われた研究です。
実際の疝痛馬では、脱水、疼痛、腸管虚血、電解質異常、循環不全、DIC傾向など、もっと複雑な要素が重なります。
そのため、今回の結果をそのまま「疝痛馬にはデクスメデトミジンが有効」と言い切ることはできません。
ただし、
エンドトキシン血症がすでに存在する馬の麻酔管理において、デクスメデトミジン持続投与と吸入麻酔薬の減量が有益である可能性
を示した点で、とても意義のある研究だと思います。
まとめ
今回の研究からは、エンドトキシン血症の状態にある馬の全身麻酔において、デクスメデトミジンの持続投与が、心血管機能や腎機能の維持に役立つ可能性が示されました。
馬の麻酔、とくに疝痛や重症例の麻酔では、
「眠らせる」だけではなく、
循環をどう守るか、腎臓をどう守るか、炎症に伴う全身への影響をどう最小限にするか
が非常に重要です。
今後、実際の疝痛症例や重症例での臨床研究が進めば、馬の麻酔管理はさらに洗練されていくかもしれません
Mahalo





