獣医療

第三腓骨筋腱断裂(付着部骨折)

この写真をみて違和感を覚えることができますか?

正常な馬ではこんな角度で肢が伸びることはありません。

膝が曲がっているのに、飛節が最大限に伸びています。

本来、馬の後ろ足は、

『後膝が曲がるときには飛節も曲がり』『後膝が伸びる時は飛節も伸びる』 

ように、筋肉と腱が配置されています。

写真の馬は、 後膝を曲げているのに飛節が伸びきっています。

そのため、飛節の上(近位:きんい)に過剰に緩められたアキレス腱がくぼんでみえます。

Twitterクイズのこたえ

正解は ②の第三腓骨筋(ひこつきん)腱断裂 でした。

①アキレス腱断裂 : アキレス腱を構成する筋・腱群は6つです。分娩時の仔馬では、腓腹筋(ひふくきん:アキレス腱を構成する最も大きい筋肉)が断裂すると飛節が垂れ下がってしまいます。

③浅屈腱脱位 :浅屈腱は、飛端(飛節の角っこ)の上にあるはずですが、外傷などによって、SDFTを支える組織が損傷して、SDFTが飛端の外側に落ちてしまう疾患です。(稀に内側にも

④バレリーナ症候群 : 健康な仔馬の繋ぎの角度が急激に立ってしまい、管~蹄までが直線状になって’つまさき歩き’するようになってしまう状態を指す言葉です。

第三腓骨筋腱断裂

 これは第三腓骨筋腱(Peroneus tertius tendon)と呼ばれる腱が断裂した際にみられる特徴的な症状になります。腱が切れる!!? 痛そう! と思われるでしょうが、意外にも普通に歩く分には、それほど痛そうにみえません。

常歩では、患肢を前に運ぶ際に飛節がダランと垂れた感じで、投げ出されるような感じを受けます。

第三腓骨筋とは

 第三腓骨筋腱は、脛骨(膝と飛節の間)の背外側に位置し、長趾伸筋腱と前脛骨筋の間にあります。大腿骨伸筋窩(だいたいこつしんきんか)から、肢の前方やや外側を通って飛節のやや下側まで伸びる長い筋肉です。

途中、外側大腿下腿関節(ひざの関節の一部) の中を通過します。膝関節と飛節を同時に曲げる働きをします。

赤いのが第三腓骨筋腱です。これが収縮(縮む)すると、膝と飛節が同時に屈曲するのがわかると思います。

一方、骨の後ろにあるのがアキレス腱を形成する筋肉群です。腓腹筋(Gastrocnemius muscle)はその中でもっとも大きな筋肉で、大腿骨の後ろ側から、飛端に繋がっています。

(※他にも浅屈腱などもアキレス腱を構成しています。)

本来であれば、第三腓骨筋が収縮するとき➡後膝と飛節が同時に屈曲する ので、腓腹筋は伸ばされるはずですが、第三腓骨筋断裂では、写真のように後膝を曲げた際に、同時に飛節を曲げるはずの第三腓骨筋が働けないため、飛節を伸ばすことができるのです。それによって、骨の後ろ側にある腓腹筋が緩んでしまいます。

写真の飛端より上側のたるみ(窪み)は、その腓腹筋や浅屈筋のゆるみが見えているのです。

診断

 特徴的な症状から予測はできますが、エコー検査で断裂部位を確認することができます。また、レントゲンで腱に無理矢理引っ張られて骨折した大腿骨伸筋窩の骨片を認めることもできます。(剥離骨折)

エコー像

治療・予後について

第三腓骨筋腱はとても長い筋肉です。その断裂する場所も症例によって様々です。

1歳以上の馬が多く含まれていた報告によると、基部(大腿骨側)での断裂が2例、真ん中が 11例

終止部(飛節側)での断裂が11例 と報告されています。

ですが、当院では当歳での発症をみることが多く、起始部での剥離骨折が多い傾向にあります。

厳密にいえば、断裂ではなく付着部骨折(大腿骨伸筋窩の骨折)です。。

仔馬では、強い張力によって腱が切れる前に骨が剝がれてしまうのだと考えられます。

この病気の発症は、馬が足を引っかけた状態で無理矢理に肢を引っこ抜こうとしたり、障碍飛越の踏切、急な動きで飛節が過度に進展することで発症すると言われています。

馬房の扉や、放牧地の牧柵の横木、馬が肢を突っ込んで、ひっかかる幅になっていないか要注意ですね。

腱の損傷部位によって、予後は変わりませんが、併発して他の筋肉や腱を痛めると予後が悪くなるようです。

(例えば、浅屈腱の外方脱位、外側趾伸筋・前脛骨筋などの損傷)

治療

第三腓骨筋腱の断裂を起こした馬は、安静にして治療します。馬房で休養させます。

仔馬で大腿骨伸筋窩の骨折を認めた馬のアスリートとしての予後はよくありません。

ですが、成馬での発症に関しては、腱の両端の間に線維化(または瘢痕組織)が形成され、最終的には構造の機能がほぼ正常に回復するとも言われています。

瘢痕組織の大部分は断裂後60~90日目までに形成されますが、最大限の強度を発揮するのは受傷後10~12ヶ月後です。

それまでは、曳き馬や、軽い運動でゆっくりと経過を観察してあげることが、再発防止のためにも大切になります。

Mahalo