直前まで問題なく健康と思われた馬が、突然死することがあります。それは、運動中であったり、運動後であったり、食事中かもしれません。
馬の突然死の原因としては、毒素摂取・薬に対するショック反応・消化管破裂・心臓突然死(大動脈破裂を含む)などが一般的なものと考えられています。
運動に関連した突然死
運動中や運動後60分以内に突然死する場合は、心臓突然死や、呼吸不全、重篤な運動誘発性肺出血(EIPH)、脊髄損傷などが原因として報告されています。(壊滅的な骨折などは含まない)
運動中の突然死は、馬にとっても大きな問題ですが騎乗する人間にとっても人身事故を引き起こす可能性がある大きな問題と言えます。
上記したような原因で死亡した場合は、死亡後の病理解剖検査で原因が解明されます。
ですが、特に若い馬においては、検査で明らかな異常を認めないことも多く、一般的には致死的な不整脈が原因であっただろうと推定されます。
突然死の中でも、心臓や大動脈破裂などに原因があると思われるものを『心臓突然死(SCD)』と言います。
この場合、顕微鏡で検査をすると心筋に異常を認めることもあります。ただ、これらの変性(組織が変化していること)は、正常な馬でもみられることがあるため、不整脈などの原因となっているかの判断をすることは非常に難しいと言えます。
明らかに不整脈の原因であったと同定される病変を、病理解剖で認めることの方が非常に珍しいことになります。
馬の心臓は人と同じで、右と左にそれぞれ心房と心室を有する4部屋の構造からなります。全身に血液を送るのは左心室、肺に血液を送るのは右心室です。運動中は全身や肺に大量の血液を送る必要がありますので、心室の動きがとても大切です。
不整脈にはたくさんの種類がありますが、突然死を引き起こす可能性の高いのは『心室細動』と呼ばれる不整脈です。これは、競走中止した馬でよく聞かれる『心房細動』とは異なる疾患です。
心室細動は、血液を体に送れなくなってしまうため、突然死してしまいます。
人のスポーツ選手における運動中の心臓突然死
人においても、スポーツ選手の運動中の突然死の発生があります。米国では、アメリカンフットボールやバスケットボールでの発生が多く報告されています。
2003年Maronらの報告によると、若年アスリートの突然死の原因としては、肥大型心筋症、心臓振とう、冠動脈奇形、左室肥大、心筋炎、動脈瘤破裂などがあげられています。
スポーツ選手はトレーニングを行うことで生理的心筋肥大が起こります(スポーツ心)。Maronは、症状の無い状態における遺伝的な心筋症(肥大型心筋症、催不整脈性右室心筋症)がトレーニングによって発症する可能性を示しています。
原因をみればわかるように、これらは殆ど馬には当てはまりません。ですので、馬の心臓突然死を考察する上で、人を参考にすることが必ずしも正しいとは言えなさそうです。
一方で、馬でも非常に稀に拡張型心筋症があることが知られており、このような馬は、運動を嫌がるなどの症状を呈します。原因はわかっていません。これらは何らかの関連があるのかもしれません。
人で運動中や運動直後の心停止がみられた場合、直ちに自動体外式除細動器(AED)による治療が行われます。ですが、馬の場合は体が大きいために、体外から心臓の除細動を行うことは不可能です。
運動中の不整脈
馬の運動中に発生する不整脈に関する報告は多く、研究がすすめられています。
Recent advances in diagnosing cardiac abnormalities with an EKG during
exercise.Lesley E. Young, 2007
Leslyらは、循環器疾患を疑い来院した103頭のうち73頭で運動時検査を実施しました。52頭は騎乗して、21頭はロンジングで検査を行いました。
運動中の心電図検査 : 運動中に不整脈の発生がないか検査する方法
その中にも、何頭もの馬が運動中やリカバリー中に心室性期外収縮を認めたことを報告しています。
最近の報告では、運動中の心拍数が高いこと(199回/分以上)および、その状態を長時間続けることが、運動後に不整脈を引き起こす可能性が高いことがわかってきています。
運動中の心臓を検査する
馬の運動中の心電図をとるには特別な器械が必要です。運動中は、体の動きも大きいため、心電図を綺麗にとることも簡単ではありません。
Arioneo | Equine technology – Health & Performance monitoring – Training solutions
Arioneo は循環器内科医が、得られたデータをもとに解析をしてくれるシステムになっています。
運動中のストライド・スピード・心拍数の変動など、さまざまなデータを得ることができます。
現在、何の症状もない馬において発症のリスクを把握することは、非常に困難です。
このようなデータの蓄積が、馬の突然死を防ぐ一助になる日が来ればよいと思っています。
Mahalo