馬の輸血シリーズ 第3弾。
前回は、帯広で行われている 「輸血プロジェクト」 について、帯広畜産大学の武山先生に解説してもらいました。
人の献血にも『成分献血』がありますが、基本的にはドナーから血漿を頂くことは同じでした。
違うのは、人の成分献血では 赤血球をドナーに戻すこと(馬ではこれまで戻せていなかった)

今回は、社台ホースクリニックの 田上正幸 先生に、最新の馬の血漿採血について説明してもらいました。
馬の血漿採血について
今回は、社台ホースクリニック(SHC)が導入した血漿作成用の機械について紹介します。
海外では血漿製剤の販売が一般的に行われていますが、日本では生物製剤の販売・購入ができないのが現状です。


そこで、武山先生が取り組まれている『輸血プロジェクト』が非常に重要な意味を持ってくるのですが、日本で馬の血漿製剤を作成する際には
- 1度に採材できる量が限られる(輓馬ならこの点はある程度解決?できますが)
- 作成する際の 衛生的な問題
- 血球成分が混在する可能性
- ドナー馬の負担(貧血などの可能性)
等が問題になってきます。
そこで、海外のPlasvacc社と提携し、血漿作成用の機械を導入しました。
実際に2021年12月より血漿製剤の作成が開始されています。

血漿採血の大まかな流れ
- 馬を枠場に保定
- 左右の頚静脈に留置針を設置 (採血ライン+補液ライン)
- 抗凝固剤を混ぜながら採血し、機械で遠心分離 (血漿と赤血球をわける)
- 分離された血漿成分が自動的に採材バッグに
- 分離された 血球成分 はドナーに戻される



③~⑤のサイクルを半自動的に繰り返すことで、一度の採血で 16Lの血漿採血 が可能になります。
所要時間は約5時間です。
馬を枠場に保定することにはなりますが、採血中は採食自由 できるだけ馬にストレスを与えないように、リラックスした状態で採血を実施します。
この機械を導入したことで
- 1度に採材できる量が限られる→1回の採血で16Lの採血が可能
- 作成する際の衛生面への配慮→採血の回路が閉鎖的であるため、衛生的
- 血球成分が混在する可能性→遠心分離を行い、血漿成分のみの採材が可能
- ドナー馬の負担→血球成分を戻しながら行うので、貧血の恐れがなく負担を最小限に
これらの問題を解決でき、開腹手術の術後治療や、FPTの仔馬などへ迅速、かつ多量の血漿製剤の使用が可能になりました。
最後に
血漿に含まれる『抗体』は、からだが様々な病原体とたたかうために役に立つ成分です。
抗体は、さまざまな病原体に対して対抗するために『鍵と鍵穴』のように、それぞれに特有の形をしています。
世界各国、いろんな場所で病原体は異なります。
ですから、理論的には その土地の病気に対する抗体を有する、その土地に生活しているドナー から血漿をいただくのは良い方法です。
さらに、特定の病気の病原体を感作させることで、その病原体に対する抗体価を上げた血漿を作成することもできます。
現在は、ロドコッカス(Rhodococcus Equ.)に対する抗体価を上げた血漿を、予防・治療に使えないかと検証中です。
Mahalo