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馬の輸血ってどんなもの? -2-

 安全に輸血をするためには、血液型について知っておかなければなりません。

・ 血液(赤血球を含む全血)は長期保存ができない(最大28日)

 ※『血漿』は冷凍保存が可能

・ 輸血を必要とする疾患が ヒト ほど多くない

等の理由で、定期的な献血はおこなわれていません。

引き続き 帯広畜産大学の 武山 暁子助教 に解説してもらいました🐎 Mahalo

十勝で進められている「輸血プロジェクト」

十勝馬事振興会と帯広畜産大学とで連携して、輸血体制を作る。

  1. 血液検査
    • 十勝管内で飼養されている重種馬の血液型を調べる
    • ユニバーサルドナー・血漿ドナーの馬を特定する
  2. 定期的な献血
    • 安全な量・安全な頻度で採血し、保存用の血漿を確保
  3. 保存・輸血
    • 冷凍保存 した血漿を帯広畜産大学・各地域の診療所にてストック
    • 必要な時にすぐに輸血 できるようにする

このプロジェクトが進めば、十勝地域で 輸血を必要とする馬をもっと助けられるようになる ことが期待されています。

採血風景
採血された血液(左)と遠心分離された血液(右)

どんなときに輸血が必要?

馬の輸血が必要になるケースはいくつかあります。

1. 大量出血

  • 外傷や手術後に血を失った馬
  • 新生児黄疸により重度の貧血を起こした子馬
  • 体重の30%(500kgの馬なら12~15L)以上失った場合
  • PCVが20〜25%まで低下した場合

ドナーのPCVが正常値(40%)あると仮定すると、体重1Kgあたり2.2mlを輸血すると、レシピエント(輸血される側の馬)のPCVは 1% 上昇します。

  成馬で出血による貧血症状がみられた場合、可能な限り多くの全血を輸血することが望ましいとされています。すなわち、同じサイズの馬から採血をして輸血する場合、 500Kg の馬で 7.5 ~ 9 L を採血してそのまま輸血することが可能です。

2. 新生児免疫不全(FPT)

 人と違って、仔馬は生まれた瞬間に『抗体』をもっていません。

出生後36時間以内に『初乳』という特別な母乳を飲むことで、母馬から『抗体』をもらうことができます。

その過程がうまくいかなかった病気が、新生児免疫不全(FPT)です。

  • 生後12時間以上経過していてFPTが疑われる子馬
  • 生後間も無く感染症に罹患した子馬
  • 血漿輸血で抗体を補充することで、感染症を防ぐ

3. 感染症や敗血症

  • 免疫力が落ちた馬は感染症にかかりやすい
  • 血漿輸血で免疫物質を補充し、回復をサポート

4. 低タンパク血症

  • 重度の炎症や栄養不足で血中タンパクが不足
  • 血中タンパク質が低下すると投薬への反応性も低下する
  • 血漿輸血でタンパク質を補う
腸管の吸収不良症候群の馬のグルコース負荷試験
正常な場合、1g/Kgのグルコース投与後は85%以上の血糖値上昇があるはずが…

まとめ

馬の輸血は、重症の馬を救うためにとても重要な治療法 ですが、日本ではまだ十分に普及していないのが現状です。これは海外のように血漿製剤が販売されていないことが背景にあります。

馬の生命を守るためにも、輸血について理解を深めておくことが大切だと考えています

次回

国内での血漿製剤は販売がありません。 

ただし、当院では海外から血漿作成用の機械を導入し、一度にたくさんの血漿製剤を安全に作成することができています。

次回は、そんなお話。 

Mahalo