獣医療

馬の疼痛管理について(1)

 先日の馬部会にて、馬の疼痛管理について発表しました。

今回は馬の痛みについてトピック的な内容になります。

痛み(疼痛)の定義と評価

 馬の痛みについては、前回の記事を参照ください。

今年のACVS(米国獣医外科専門医学会)はケンタッキー州で10月に開催されましたが、同時開催でACVAA(米国獣医麻酔疼痛管理専門医学会)もありました。 

1970年に誕生したACVAは、動物医療における鎮痛の重要性を認め、2012年に ACVAA へと名前が変更になりました。

痛みの種類

 『痛み』は原因によって3つに分類されます。

 馬の痛みを考えるうえで、③の心因性疼痛に関してはまだ研究が進んでいませんが①と②については、意識して管理してあげることが大切です。

 なぜなら、①と②は同じ【痛み】として認識されますが、大脳に痛みを伝える経路が違うので、同じ『鎮痛』を目的とするにもアプローチを変える必要があるからです。

侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛

 体表には感覚神経が分布しています。 

外部からの刺激が加わると、組織からブラジキンニンとプロスタグラジンという物質が生成されて、神経の末端の侵害受容器を刺激します。 

神経の刺激は脊髄・視床を通って、最終的に大脳皮質で痛みとして認識されます。

 馬の神経障害性疼痛を発症しやすい長期にわたる疼痛の代表疾患として蹄葉炎があります。神経障害性疼痛は、以下の順番で起こります

① 痛みなどの刺激に対して過敏になる

② 神経の伝導が鈍化して、痛みが慢性痛となる

③ 知覚過敏、しびれや強い痛みを生じる

 あまりに長い疼痛が続くと、軽いはずの痛みの刺激が激痛に感じられたり(痛覚過敏)、通常は痛いと感じるはずがないような刺激を激しい痛み(アロディニア)と感じるようになることがあります。

 馬の蹄葉炎の原因はいろいろありますが、現在はメタボリックシンドロームに併発したインスリン抵抗性の状態が最も多いとされています。蹄骨のローテーションなどの物理的な変化に加えて、インスリンが神経に損傷をあたえるため、神経障害性疼痛が発生してしまいます。

 蹄骨が安定化し、レントゲンなどからは歩様が良くなってもよさそうなのに、痛みが消えない理由の一つとなる可能性があるのです。

補足

 蹄葉炎の馬の神経細胞において、神経障害性疼痛でみられる神経細胞障害マーカーATF-3の増加を認めた報告があり、これが蹄葉炎罹患馬の 神経障害性疼痛 を証明していると言えます。

Neuropathic changes in equine laminitis pain

それぞれの疼痛に対する薬については、次回の記事に。

みなさんの知ってるバナミンはどこに効くのかな?? お楽しみに。

Mahalo